婚約者争奪戦編
第1話 新しい婚約者について
婚約破棄もとい婚約白紙パーティーから一ヶ月が経ちました。
王族でなくなったアルバン様と問題を起こしたハッセル子爵令嬢は学園を去った。
恩情なのか嫌がらせなのか王命によって二人の婚約が成立している。現在はハッセル子爵領にて厳しい教育を受けながら過ごしているそうだ。
最初は文句を言って喧嘩をしていた二人も今では仲良く暮らしているらしいが詳しい事はよく知らない。
陛下や王妃様、クリストフ様はアルバン様の除籍について各方面への対応に追われる日々を送っている。また近いうちに隣国から王族の留学生がやって来るとかで出迎える準備も並行して進めているらしく大変忙しそうだ。
そして私は婚約者がいなくなった身として穏やかに過ごす日々を送る……はずだったのですが、これはどういう事なのでしょうか。
目の前に積まれた紙の束。一枚だけ取り上げてチラッと中を覗いてそっと閉じました。
「お母様、これは?」
「リアちゃんへの縁談の申し込みよ」
「何故、ですか…」
私は婚約が白紙になってから一ヶ月しか経っていない不良物件。
どうして三十以上の縁談が舞い込んでくるのでしょうか。おそらく訳あり貴族かホルヴェーク侯爵家と繋がりを持ちたがっている貴族でしょうけど多過ぎですよ。
「とりあえず見てみます」
「あら、無理に見なくてもいいのよ?これもあるし」
母から渡された一際豪華な紙を見て、私は苦い顔になる。
紙の下部に書かれた文字を見るだけで破り捨てたくなってしまうのは仕方のない事。
『クリストフ・フォン・デッケン』
この国の王太子殿下の名前がしっかりと書かれているこの紙は婚約申込書。
そうクリストフ様から縁談が来ているのです。
「何故クリストフ様からも来ているのですか…」
「そりゃあリアちゃんがパーティーの時に断るからよ」
「それは…」
あの婚約破棄が行われたパーティーの時、クリストフ様とダンスを踊っている最中に引き寄せられた私は彼に『好きだ。俺と婚約して欲しい』と言われてしまったのです。
そのプロポーズに似た告白に対して私は。
「無理って叫ぶリアちゃん、面白かったわ」
「お母様、馬鹿にしてますよね」
「まさか」
別にクリストフ様との婚約が嫌で無理だと言ったわけじゃない。ただ婚約を白紙に戻したばかりだった為、反射的に言ってしまったのだ。
無理だと言った後、クリストフ様は笑っていたし冗談だろうと思っていたのです。しかし翌日に縁談申込書が届いた事で彼が本気だったと知りました。
普通のご令嬢だったら喜んで食い付きますし、絶対に断りません。
ただ私には婚約解消をしたばかりという特殊な事情がある。気持ちが落ち着くまで保留という形を取ってもらっているのだ。
「みんな、クリストフ殿下から縁談が来てるって知らないから送ってくるのよね…」
そう言った母は「やだやだ」と紙の束を燃やし始めた。まだ一枚も読んでいないのですが、読ませる気なかったのですね。
灰になっていく紙達を眺めながら、溜め息を吐いた。
「新しい婚約者ね…」
やっぱりまだ要らない気がするわ。
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