模擬試合 2

 「ジギーは相変わらず。またゼルに怒られても知らないぞ。まあ、それが怖くて手を抜くような奴じゃないのは知ってるけどな。」

 そう言いながら、次いで広場中央に進み出たのは、ルヴェンだ。


 「前回は俺の炎を学生たちに満足に披露できなかったからな。今回は存分にやらせてもらうぜ。」

 ルヴェンの剣の周りに揺らめく陽炎は、先ほどよりも強くはっきりと現れていた。風向きによっては、噴水の仄かな水しぶきが彼のもとへ向かっているはずだが、その形跡が全くなくなっていることからも、彼が相当な熱量を放っていることが分かる。


 「二人とも。勝負に熱くなるのはいいけれど、警備隊がいるとはいえ、度を越すのは無しよ。何より、美しい噴水をまた壊したら承知しないから。」

 「レーゲの逆鱗に触れると、後片付けの手間が増える・・・。それに、ゼルに怒られるのも嫌。つまりそういうことだから。」


 ジグムントとルヴェンの対峙する姿に、苦言を呈するレーゲとエルマ。その言葉は彼らにとってはいつものことなのか、手をひらひらと振ってみせた。


 「我が名は豪炎一閃の騎士、ルヴェン・ヴルカン・フォン・ツェンハルト。此度の模擬試合をお受けする。さあ行くぜ、火傷には気をつけな。」

 

 二人の宣言を広場の全員が聞き届けると、レーゲは噴水に向かって、エルマは空に手をかざす。彼女らの魔法によって、水しぶきはジグムントとルヴェンの周りを柵のように囲い、風は生徒たちを守るように、渦を巻いた。

 四騎士が、広場を一瞬で安全な試合の舞台に作り替えた事に、その場にいる者たちの期待と尊敬の眼差しは、一層輝きを増していた。


 ゼライツは広場を見回し、天を軽く仰いでは深く息を吸い込み、鋭く声を挙げた。


 「『王立警備隊長模擬試合』、第一試合、ジグムント対ルヴェン。はじめ!」 


 その声と同時に、ジグムントとルヴェンは素早く剣を抜き、切っ先を互いに向け、間合いを図った。

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