謁見の間 1

 ゼライツは、新入生たちの方に向き直り、凛とした声で言った。

「さて、皆さん。ここから先はグラブダ王宮です。ここは言わずもがな、国の中心です。服装の乱れはありませんか。然るべき心構えでこの扉をくぐってくださいね。これから、国王陛下による入学許可宣言が下賜され、皆さんは晴れて、正式にグラブダ王立学院の生徒となります。」

 期待と興奮に胸を踊らせ、俄かに騒ぎ始めていた新入生たちは、その声にはたと気がつくと、再び緊張した面持ちになった。


 国の歴史を描いた、幾枚もの絵画が飾られた大広間の先には、大図書館への扉と同じ、龍とヒトのレリーフに、縁に金の装飾が施された、謁見の間への扉。

ゆっくりと開かれたその先には、美しく磨き上げられた白亜の壁に、正面の玉座へ向かうように、深紅の絨毯が一直線に続いていた。


玉座には、アーカーシャの姿を模した黄金の像が飾られている。それを後ろから優しく照らし出すのは、グラブダ王国の紋章のステンドグラス。その両側から、群青色の旗がずらり並び、こちら側まで続いていた。

その光景に、新入生の誰もが思わず息をのんだ。


 玉座の前に、ゼライツを筆頭とした案内人、その後ろに新入生たちが並ぶ。

ヒリヒリとする緊張感が謁見の間全体を包み込んでいた。


玉座両袖から四人の武官が現れる。群青色のマントがついた白銀の甲冑を身につけ、子供の背丈ほどある金の長剣を携えている。四人は、それぞれ種族が違っているようだが、その鍛え抜かれた体躯と、鋭い眼差しは共通しており、鎧の上からでも強く感じられた。


次いで、侍従たちが現れた。細やかな刺繍が施された白いケープを纏っている。一点の汚れもないそれは、彼らの守るべき者の清純さを示しているようだった。


そして、リン、と澄んだ鈴の音と共に、一際美しい者が姿を現した。

薄く白いベールの上からでも分かる、透き通った肌。頭上から差す光に照らされた髪は、一つの色に留まることなく、ステンドグラスの色をそのまま映し出していた。

穏やかな湖のようなその姿をキリリと引き締める双眸は、幾度となく目にした、深い群青色をしていた。


グラブダ王族は、ヒト種の中でも最も魔力との親和性が高いとされる、エルフ族だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る