第97話『一人ぶらり散歩』
軽く二日酔いになった。
「浮かれすぎた」
深く反省。
いやはやまさかあんなにも歓迎ムードになるとは思わなかった。
1日分だけ宿代金奢ってやると言われて、指定された宿で起きたわけだが、罠ではないよな???
昨日酔いが回ってそのままベットに倒れ込んでしまったから確認していなかったので、大慌てで所持品やら盗聴器やらをあらかた探した。
無いことを確認してホッとする。
窓から外を見ると砂漠の中なのにヤシの木が生い茂り、大きな湖と小川がそこかしこで流れる見事な街が広がっていた。
絶対に砂漠の中なんか嘘だろと思うが、視線をちょいと上にやると外壁が見え、更にその向こうへ目をやると死にかけたあの砂漠が地平線の先までずっと続いている。
脳裏に甦る砂嵐。
生きてて良かった。
「さて、ちょっと出掛けてみようかな」
昨日は結構遅くまで飲んでいたので恐らくターリャはまだ起きなさそうだ。
寝ているターリャはむにゃむにゃとなにやら寝言を言いながら微笑んでいる。
こんなに楽しそうな夢を見ているのに起こしたら可愛そうだ。
机の上に『少し出てくる。お昼までには戻る』とメモ書きしてから部屋を出た。
部屋を出て下の階へと向かう。
階段を降りきると、昨日飲んだ席でちびちび水を飲んでいる男がいた。
「おおおー…!勇敢なる攻略者さんじゃないか…っ!」
頑張って声を張り上げているが、声が掠れて聞き取りにくい。
しかも顔色もずいぶん悪い。
さては二日酔いだな。
「ずいぶん早起きですね」
この人が昨日の飲食代を持った人だ。
挨拶するついでに聞きたいことがあったので近寄ると、机の下にもう一人倒れていた。
服とか見るに、俺達の宿代を持った人。
俺の質問に二日酔い男、確か名前がヨゥダがハハハハ!と笑う。
「ちげーよ、通しだ」
「そうですか。お疲れ様です」
「おうよ」
宿の人も大変だな。
「ヨゥダさん。質問があるのですが良いですか??」
「なんだ?頭回っているから簡単なので頼む」
「砂船の予約はどこで取れば良いのですか?」
「ああ、えーとそれはだなぁ……、…………紙と書くものあるか?」
「どうぞ」
バッグからメモ帳とペンを取り出して渡すと、ヨゥダはヨタヨタした線で何とか地図を書いた。
「えーとなぁ、ここが宿。んでもって、ここが湖。これをぐるんと回ってだなぁ……」
言葉と一緒にペンが動く、湖を迂回する感じで行った先の、壁際にあるらしい。
「そこでチケットを取るんだ。ケチって安いほうに手を出すと地獄見るから、普通か、ちょいと上の取った方がいい」
「わかりました」
教えてくれたお礼に、二日酔いに効くらしいラコッタ(梅干しに似てる漬物)を俺の奢りで注文しておいた。
「さて、チケットを取るなら早い方が良いだろう」
のんびりして取り損ねたら無駄に二週間待つ羽目になるからな。
ヨゥダの書いたヨレヨレ地図を片手に目的の店まで歩いていく。
街は日光に晒されて死ぬほど暑いと思いきや、屋根から屋根に向かって大きな布で日除けがされているところがわりと多く、そこを伝っていく。
「へぇ、サーウォ(砂漠魚)の塩漬けか。酒に合いそうだな」
砂漠ど真ん中なのに魚が売られているのは変な感じだけど。
「お試しあるよ!食べてかないかい?」
「試食か」
小皿に細かく切られたサーウォの欠片を一つ摘まんで食べてみる。
塩漬け、ていうか、薫製だなこれ。
「どうだい?塩分補給にもいいよ!」
「そうみたいだな。この携帯型一つくれ」
「毎度!」
右手に湖を眺めながらゆっくり歩き、目的の店に辿り着いた。
「船着き場だな」
以前見た船着き場が砂の上に建てられていた。
といってもその砂自体が少し様子が変で、まるで川のように渦を巻きながら動いていた。
どういう仕組みだ?
チケットを確保して宿に戻ってくるとターリャがむくれていた。
「置いてったー」
「すまんすまん。気持ち良さそうに寝てたから」
「ターリャも一緒に行きたかった!」
「そういうなって、ほら。チケットも無事買えたし、ラスト二枚だったんだ」
本当にギリギリ滑り込めた。
昼だったらきっと売りきれていただろう。
それを聞いてむくれていたターリャが「じゃあ、しょうがない」と許してくれた。
「お詫びといってはなんだが、こんなの見つけたんだ」
「?」
紙袋からシュシュを取り出す。
帰り際に見つけたものだ。
「なにこれ。どうやって付けるの?」
「これはシュシュってやつだ。この編みゴムで髪を纏めて、このシュシュで飾り付けるらしい」
此処で流行っていると店員におすすめされた。
「へぇー。…ねえ、トキ」
「なんだ?」
「私髪の毛纏めたこと無いからやって欲しい!」
「ええ?」
「ね!お願い!それで覚えるから!」
「うーん、わかった」
思えばターリャが髪を結んだ事はなかったな。
なら、初めはやってやろう。
さらりとしたターリャの髪が手の中で流れる。
分かってはいたけど、こうサラサラ過ぎると流れるな。
それでもなんとか纏めあげ、シュシュで飾り付けた。
「できたぞ」
すぐにターリャが鏡の前に立ち、髪を見ると嬉しそうに「わあー!」と声を上げた。
「凄い!可愛い可愛い可愛い!!ありがとうトキ!!」
馬のしっぽの様に揺れるターリャの髪の毛を見て、俺は思った。
編み込みとか覚えよう、と。
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