第86話『乙女ターリャ』

 ターリャの成長が完了した。


「……結構、背が伸びたな」


 見た目的にはだいたい中学生くらいになった。

 成長期辺りを通過したせいで、今まで以上に目線の高さが気になるのか、ぐるぐる回ったり自分の体を見回したりしている。


「違和感でもあるか?」

「なんか……変な感じ」

「変?」


 もしかして何か失敗したか?


「胸きつい」

「……………………」


 俺はそっとターリャから目を剃らした。


 そうだった。

 そうだな。うん。

 どうしようか。


 とりあえずと、バッグから包帯用布と鞣した皮を取り出した。


「ターリャ。先に服のボタンを付け直して丈を合わせておけ」

「はーい」


 子供用の冒険者の服はサイズ調整ができる仕組みになっている。

 ズボンも伸縮性あるものを選んでいたからよかった。。


 その間に俺はその布をナイフで加工して形を整えている。

 全く自信はなかったが、無いよりはマシだ。

 要はアレを買うまで持てばいいんだ。


「トキ、できたよ」

「おう。…………」


 見てみると、ツッパリテンテンのターリャがいた。

 ダメだな。

 やっぱり全揃えだ。


「ターリャ、身を隠せそうな岩影を探しておいてくれ」

「なんで?」

「いいから。必要だから」

「えー、わかった」


 探している間に俺も一応完成した。

 てか、これでよかったかな。

 俺の持っている知識だとせいぜい胸の包帯の応用でしか作れなかったが。


 ターリャが俺のやっていることに興味をもってやってくる。


「岩影は?」

「もう見つけた。それより何しているの?」

「これはな、こうやって胸に巻くんだ」


 別の布で手本を見せてやった。


「トキ胸怪我でもしたの?」

「いや、俺ではなくターリャがこれをするんだ」

「え?」


 さらっと服の下に着けること、動いてずれたり落ちたりしないのを確認することを教えた。

 すると、何か思い当たることがあったらしいターリャがハッとして、お手製胸当てを手にとって岩影に走っていった。

 ついでにバッグも持っていっていたんだが、なにするんだ?


 数分後、ターリャが戻ってきた。


「見て見て!どうこれ!」


 今の体格にぴったりのワンピースだった。


「え、どうした、それ」

「可愛いでしょ?」

「可愛いよ。で、どうしたのそれ」

「これねー!お下がり貰ったの。いつか着てね、って。着られるようになって嬉しい」


 ルンルン鼻歌歌いながらルシーにも見せびらかしていた。


 とりあえず、帰ったら服買いにいかないとな。









 近隣ギルドにドラゴン討伐完了の合図を送り、引き渡しを完了させてから、街に戻った。


「普通に通れたね。結構見た目変わったと思ったのに」

「ああ、ウンドラはそういうところ良いよな」


 ウンドラの門番は総じてわりと緩いのだが、こういう時ほんとうに助かる。

 だってアイリスだったらターリャの成長が著しくて、多分だけど、止められてる。

 ここが獣人と暮らす国との違いか。


 獣人の中にはターリャよりは緩やかだが、急成長を遂げる種族も要るらしいからな。

 現に見渡せばあちこちに獣人の姿が見える。

 猫型や犬型、馬や牛など。

 しかし、だいたいが獣寄りである。


「鳥とかいないのかな」


 まだ見たこと無いが、いるならば見てみたいものである。







 さて、服屋に着いたわけだが。

 俺はターリャにここで待つように指示され、大人しく待っている。

 理由としては、男である俺はご法度なものを買うためだ。

 どうやら事前にオブザーバーメンバーのウージョンカとエリナのお姉さん方がターリャに色々教え込んでいたらしい。

 大人の女性の嗜みと書かれたメモ帳の作者に2人の名前があったから間違いない。



 というか、俺達男性陣がやれ最近の妖魔のおもしろい攻撃方法だの、やれ最近食った肉だの下らない話をしている間、女性陣は得のある話をしているんだなと少し感心した。

 まぁ、下らない話は続けるけどな。

 カラカジョとは得のある話をしているし。(主に盾関係)

 近くの花壇の縁に腰掛けて待つこと十数分、ようやくターリャが顔を出した。


「どうした?」


 金でも足りなかったか??


「あのね、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんだ?」


 そのままこっちにやってくる。

 手には紙袋。

 なんだ買えたのか。……じゃあなんだ?


「これなんだけど……」


 言いながらバッグからお気に入りだった服達(お姉さん方やジョコーさんのお下がり)を取り出した。


「これね、何とかして着れないかな」

「……無理じゃないか?」


 サイズ的に。


「そっか…」


 シュンとしてしまった。

 といっても小さくなったのは古着屋で売るか素材屋で売るか…、…あ。

 そうか、アレがあったか。


「ターリャ、仕立屋に持っていけばなんとかなる」

「仕立屋?」

「ちょっと値が張るけど、古着を仕立て直して新品同様にして貰うんだ。そうすればまた着られるようになる」

「ターリャ……、私それしたい!」

「? よし、じゃあ仕立屋を探さないとな」


 仕立屋は直ぐに見つかった。

 そこでターリャが直に交渉していた。


 なんだか新鮮だな。

 カウンターに届くターリャ。


 こう見るとずいぶん大きくなったんだなと実感する。

 片手抱きできていた頃が懐かしい。

 といってもまだ一年経ってないんだけど。


 ターリャが引き換え板を持って戻ってきた。


「三日後だって」

「ずいぶん早いな」

「最新のすごい早さで服が縫える機械があるんだってさ」

「へぇ」


 ミシンとかかな。



「あとは盾の新調と、竜種装備以外の装備を変えるだけだな」


 こればっかりは仕立て直しとはいかない。

 サイズが合わなければ大ケガをする恐れもあるから。


 その後、着々とターリャの服を買い揃え、最後に防具屋に向かうことになった。



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