第59話『とんでもない盾職だった』
会場には、特別な部屋がいくつかある。
その中でも特に有名なのは、B級からの昇級試験の部屋である。
一面ガラスで覆われた廊下から、試験が行われる広場が見下ろせる形になっており、誰だって見物ができるようになっていた。
今回、パーティーの補欠に誘えそうな奴を見付けるために定期的に会場を適当にうろつくことが習慣になっていたクジャーダ・リグ・ウリギドーシャという男は、久しぶりに上級への昇級試験が開始されるというアナウンスに誘われて見物するために階を上がってきた。
アナウンスが流れるのは万が一の場合があり得る可能性の※
(※それとなく教えること。また、暗にそそのかすこと。)
「ふーん、やっぱり集まってきてるな」
見物が出来るガラスには、クジャーダと同じような目的の連中が既に集まってきていた。
運良く窓際の位置を確保できたクジャーダはどんな奴だと見下ろした。
広場の真ん中に立っている人物を見て、盾職?と、クジャーダは表情を曇らせた。
いくつかある役職の中でも全然華やかでない役職だ。
使える場面といえば囮とかタンカー位で、あまり人気がない。
尊敬はされるが、俺は絶対にやりたくない役割だ。
要は踏み台ってことだ。
盾を踏み台にして強い敵を華の剣士やら魔術師達が屠る。
(ちぇっ、せっかく上がってきたのに外れだな)
タンカーは欲しいが、俺はドラゴンとサシでやっても余裕な奴がいい。
どうせ盾職はそれ専用の試験だ。
決められた時間、ランダムに射出される魔法弾の攻撃を受け続けるだけのつまらない展開。
「はぁー、戻るか」
クジャーダが踵を返そうとした時、辺りがどよめき立った。
あちこちから「うそだろ?」「自殺行為だぞ」との声が上がる。
足を止め、振り返る。
なにをそんなにざわついているんだ。
そう思いながら再び視線を広場に戻すと、岩場にドラゴンが現れた。
「は?」
思わず間抜けな声が出た。
なんで盾職が一般用の試験受けているんだ?
普通、盾は護りメインの役職であり、攻撃はしない。
ドラゴンなんて持ってのほかだ。
あれは並大抵の攻撃でも倒すのに苦労する相手だ。
防御しかできない盾で倒せる妖魔ではない。
見たところ攻撃用の武器なんて見当たらなかった。
あるのは変わった形状の盾のみだ。
「おいおい。設定ミスか?」
「どうすんだよこれ」
「下に連絡しに行くか?」
周りも間違いだと思って、下に報告して試験中止して貰うかと相談している奴もいる。
だが、盾の奴は目の前のドラゴンに狼狽えること無く、盾を構えた。
ドラゴンが初手の攻撃、翼を広げて咆哮した。
障害物越しでもビリビリと響く咆哮に、俺も周りも足がすくむ。
これは仕方がない。
ドラゴンの咆哮にはそういうスキルみたいなものがある。
本能みたいなものだ。
生身では絶対に立ち向かえない絶対的な強者から命を護るための反射だ。
きっと盾のもまともに咆哮を食らって尻餅でも搗いているんだろう。
耳栓みたいなものも確認できなかったし、と見てみたら奴は平然と立っていた。
しかも何故かテンションが下がっているようにも見える。
いや、おかしいだろその反応。
なんだ、ドラゴンか。みたいな反応してんじゃないよ。
大きなトカゲと違うんだぞよくみろ。
さては重度の近眼か???
そうこうしているうちにドラゴンが盾のに突っ込んでいった。
ドラゴンが勢いを付けて尾で薙ぎ払う。
びくともしない盾の。
「??」
この辺りで俺も周りもあの盾の異変に気付き始めた。
なんだこの、すでに行動パターンは把握できているみたいな雰囲気。
上からの体重を上乗せした引っ掻きも難なく軌道を逸らして行動のダメージを逃がしていた。
そして。
「出た!タンキングだ!!」
思わずなんだろう、近くのやつが叫んでいた。
目下ではドラゴンがお得意のタンキングで着火した炎を吐き出して盾に浴びせかけていた。
普通なら、熱さで後退するはずだが、なんでか盾のはその場から動かない。
炎から発生した煙がもうもうと立ち込めて視界を悪くしている。
ドラゴンは盾のを倒したかどうか確認しているようだ。
こう視界が悪くちゃ動くに動けないもんな。
現に俺たちも盾の姿を探していた。
「おい!あれ見ろ!」
しかし次の瞬間、俺は信じられないものを目にした。
隣のやつが指差す先に目をやると、いつの間にか盾のがドラゴンに接近していた。
ドラゴンの喉元に突き刺さる剣のようなもの。
盾が消えている。
なんだ、アイツの武器は変形型なのか??
おおおお!!と一斉に歓声が上がる。
ドラゴンが痛みにもがいて暴れている。
転がり、吼えようとした口からは何故か黒い煙が吐き出され、そのまま動かなくなった。
「……いいな、あいつ。今回のカモはあいつで決まりだ」
早速仲間を呼びに行くためにクジャーダは走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます