第30話『館を全壊させた』
馬を飛ばし、飛ばし、飛ばし。
前方の街を睨む。
あの街の周辺にいる。
なんで分かるのか、そんなの知らん。
ただ、方向が分かるってだけだ。
怒り狂っているから妙な勘が働いているのかもしれないし、もしかしたら左腕に着けているこの盾がターリャの居場所を教えているのかもしれない。
どちらにせよ、俺はそれに従って動くだけだ。
■■■
ホゥホゥと、ふくろうが鳴いている。
門番がアクビをしながら暇をもて余した。
ここはターコイズ街側の森の中。
苔むした館は厳重に警備されていて、ここにやってくる奴なんか奴隷商人か奴隷か貴族くらいしかいない。
ちなみに今は夜。
夜ならば、馬車くらいだ。
それくらいだから、暇で仕方がない。
館の中は大忙しだろうが。
「ん?」
突然、ふくろうが鳴き止んだ。
「……なんか変な感じしないか?」
隣の門番が話し掛けてきた。
こいつが話し掛けてくるなんて珍しい。
「そうだな。夜中ずっと鳴いてるふくろうが静かだ。狩りでもいったか?」
「いや、それもそうなんだが…、森があまりにも静かすぎるというか」
「……」
言われてみれば、虫さえも鳴いてない。
何でだ?さっきまでずっと鳴いてたじゃないか。
その時、森の奥からこちらにやってくる影に気がついた。
暗闇に目立つ白系統のマントを纏った人物。
奴隷商人でも、貴族でもない。
明らかに侵入者。
槍を侵入者に向けて構える。
「おい!そこで止まれ!!」
しかしそいつは止まらない。
それどころかどんどんスピードを上げてきた。
「止まれと──」
顔に掛かる影。
「──言って……」
顔面に靴底が衝突、そのまま地面にめり込んだ。
「てめぇ!!なにして!?グフッ!?」
「侵入者だ!!侵入しゃぐっ!!」
「ワーグを離せ!!中へ入れるな!!」
薄れる意識、最後に見た光景は男がワーグを蹴り飛ばして、館の扉を謎の武器で門ごと木っ端微塵にしていたところだった。
■■■
フワフワとトロトロと、意識が微睡んでいる。
腕がいたい。
腕がいたいよ、トキ。
なんだっけ、あの軟膏が欲しい。
でも、なんで腕が痛いんだろう。
「……なんで…」
目を開けると、知らない子が居た。横向きで。
「ふぁ!!?」
誰!!?
「いたっ…。…??」
ジャラリと重いものが手に繋がっている。
手だけじゃない。
足も、首にもある。
「……、…またこれ……」
うっすら思い出した奴隷時代。
ご飯は貰えていたけど、ずっと狭い檻の中で過ごしていた。
もうトキには会えないのかな…。
そう思うと涙が出てきた。
目元をぬぐう指。
顔を上げると同い年くらいの少女。
顔を覗き込んできていた子だ。
「大丈夫?」
心配そうに声をかけてきた。
鼻を啜り、ようやく周りが見えてきた。
ここにはターリャと少女だけじゃなく、少年も含め五人も子供がいた。
しかも獣人だけじゃない、人間もだ。
現に目の前の少女は獣人ではなかった。
トキから聞いたことかある話を思い出した。
この国は獣人の奴隷は合法だけど、人間の奴隷は違法だって言っていた。
なのにどうして人間の子供がターリャと同じく鎖に繋がれてここにいるんだろう。
「……大丈夫…」
返事をしながら涙を拭う。
そうだ。そんなことよりも大事なことがある。
(大丈夫大丈夫。きっとなんとかなる)
トキはターリャを探しているはず。
なら、ターリャはここで諦めないで逃げるチャンスを伺うんだ。
立ち上がり、檻を隅々まで見た。
前居た檻と違って比較的綺麗な檻だった。
服もそのままで、バッグは置いてきてしまったけど、服の中の針金はある。
まだ鍵開けは出来ないから手錠とかはどうにかならないけど、これをターリャを連れてきた悪者に思い切り刺せば逃げる隙くらいは出来るはず。
声をかけてくれた少女に笑いかけた。
「自分はターリャ。あなたは?」
■■■
どのくらいこの薄暗い檻のなかで過ごしただろう。
3日くらい過ごしたようにも感じるし、その実1時間しか経ってないようにも思う。
檻の四隅にぶら下がったあのオレンジの石のせいで眠たくて仕方がない。
アレ、嫌だなぁ。
前の時もあれで意識がずっとフワフワしていた。
この甘い匂いも嫌い。
「……お腹すいたなぁ……」
背中に寄っ掛かって眠るサヨの寝息を聞いてると眠くなる……。
「───」
「───」
「───」
「……?」
なんだか騒がしくて目が覚めた。
「急げ、早く運んじまえ!!」
男達が次々に子供を運び出している。
自分も抱き上げられて運ばれる。
抵抗しないと、逃げないとと思うのに、すごく眠くて体が言うことを聞かない。
遠くで怒声と物が壊れる音が響いている。
眠い。
別の檻に放り込まれて、扉を閉められた。
男が檻を回り込んで声を上げる。
「行け!早く行け!!」
何だと思う間もなく、突然檻が大きく揺れた。
馬の嘶き、動く景色を見て分かった。
この檻は馬車で、これから何処かへ連れていかれるんだ、と。
またトキから遠ざかる。
嫌だな、と思いながら、瞼は鉛のように重くてまた暗闇の中に落ちていった。
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