第25話『レベリング観測パーティー』
「おりゃああああ!!!」
「やっちまええええ!!!」
次々に盗賊が襲い掛かってくる。
一人目を盾を戻す時の衝撃でぶっ飛ばし、二人目をけり飛ばし、盾で殴り、そんな感じであっという間に全員伸した。
妖魔に比べたら屁でもない。
というか、人間相手は慣れているから、襲う相手を間違えたなと憐れんだ。
憐れみはしたが、何か温情をくれてやるきもないので、盗賊が落とした剣を拾って威嚇がてらに柄の穴に指を突っ込んで回転させた。
ブンブンと回転する剣から恐ろしい音が鳴る。
「ほれほれ、早く逃げないとこれを投げるぞ」
きっとビックリするくらいの速度で飛んでいくに違いない。
そんなイメージが盗賊達も出来たようで、「うわああああ!!!」と悲鳴をあげて逃げ出した。
最後の一人が「覚えてやがれ!!」と捨て台詞を吐き捨てて逃げた。
案外呆気なかったな。
粘られても困るけど。
「ターリャ、平気か?」
「うん!大丈夫だよ!」
「……」
なんでかクロスがこちらを見上げて目をキラキラさせている。
「? さ、行こうか」
それ以降、クロスのワガママは無くなった。
そんなに盗賊が怖かったのか、それとも心変わりなのか。
なんにせよ隣街に着くまで良い子だったので俺達はとても助かった。
とてもビックリしたのだが、親は隣街で待ち構えていた。
聞くところによると、同日出発で馬車で隣街に移動したあと俺達を待っていたらしい。
さすがは金持ちの遊びだよ、勘弁してくれ。
と思ってたのだが。
「追加で送金されとる…」
シーラ街のギルドに戻ると、受付から追加料金を貰った。
「なんでも、盗賊をやっつけるのが凄くかっこ良かったそうで」
「……」
お嬢はアレを見世物的な感じで見てたのか。
まぁいいや。
これでターリャに甘いもの食べさそう。
椅子に座って待っているターリャの元に向かうと、ターリャがこっちを見て立ち上がった。
「終わったの?」
「終わった終わった。ついでに追加料金も貰ったから、美味しいもの食べよう」
「わーい!!」
そろそろ次の街に移動しても良いかもな。
ターリャもすっかり立ち回りができるようになったことだし。
近くの壁に掛かっている周辺地図を眺めながら、南側の街を見ていると、
「あのー、すみません」
声をかけられた。
「はい?」
なんだろう。
振り替えると5人組の冒険者らしき人がいた。
らしきっていうのは、装備が変わっているから。
みんな左腕に腕章をくっ付け、写真機をぶら下げている。
しかも見るところ、5人中4人が魔術師だ。
「あの、ゴードヴォンドを止めた方ですよね!」
……なんだ?なんで知ってるんだ?
もしかして船員達言いふらしてんじゃないだろうな。
返事をしようか迷っていると、話しかけてきた青年が目を輝かせてこう言った。
「実は隠れて見てました!!感動しました!!もう終わりかと思ってたのに、貴方が一人であの──むーっ!」
慌てて口を塞ぐ。
船員にバレたらまた追い回されるじゃないか!
「わかったわかった。ありがとうな、なんだ?サインでもするか??」
周囲を見渡す。
良かった。船員関係者は見当たらない。
「ぶはっ! 実は折り入ってお願いがあるのですが」
「…………内容による」
青年とその仲間達は姿勢を但し、頭を下げた。
「お願いします!僕らのクエストに手を貸していただけないでしょうか!」
「!?」
へ?
どういうこと?
意味がわからず、断るかと口を開いたところでギルドスタッフが慌ててやってきた。
ちなみに先ほどまで話していたスタッフとは別である。
「突然すみません!こちらはギルド所属のクエストのレベリング観測パーティー『オブザーバー』です。実はこのパーティースタッフの一人が昨日足を骨折しまして、このままだと観測が出来ないと、盾職の方に声を掛けておりました!」
「あ、ああ。そうなんですか」
レベリング観測パーティーなんてのがあるのか。
初めて知った。
「報酬は弾みますから、どうかお願いできないでしょうか!」
スタッフも同様に頭を下げた。
いや、いやいやいや。
無理だよ、うちにはターリャいるし。
「申し訳ありませんが、弟子もこのようにまだ小さいですし、遠出は出来ません」
「ご心配無く!これはギルドからの依頼ですので、ポートをセッティングしておりますので!3日程で終わります!」
ポートと言えば、いわゆる瞬間移動の為の魔導具だ。
一人ずつしか移動できず、距離も限られているが、現代日本のように新幹線や飛行機などがない此処では重宝されている貴重な魔導具だ。
なるほど、それなら目的地までは数分で着けるし、帰りも楽。
いやしかし、3日か。
ターリャを見る。
3日といえど、ターリャは獣人。
獣人は人よりも地位が低く、かつ奴隷商の獲物だ。
しかもターリャは可愛い女の子。
ターリャ一人で外をうろついていたら、狙われる可能性が高い。
断ろう。
危険なことはしない方がいい。
「いや、やっぱり──「トキ、ターリャはお留守番できるよ」
こっちを見てきっぱり言い切るターリャ。
いや、いやいやいや。
腰を落としてターリャに目線を合わせる。
「ターリャ、3日だぞ」
1日ならまだしも。
「大丈夫!ターリャお菓子食べて、勉強しながら待ってるから!」
「……」
ふん!とターリャの鼻息。
これは、この意見は覆られなさそうだな。
そうだな。
お菓子を山ほど買って、食糧や本を充実させておけば3日宿にこもるのはわけないか。
水も大量に保存すれば余裕で過ごせる。
ターリャも冒険者だし、年齢も本来なら大人の仕事の手伝いをさせられている頃。
(……留守番、やらせてみるか…)
物は試し。
ターリャにとってもいい経験だろう。
「わかった」
立ち上がり、スタッフとオブザーバーへと向き直る。
「その依頼、受けます」
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