第23話『デザートおじさん』

 ターリャが卵を回収した。


「……こんなに取って大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。あるだけ詰め込みな」


 どうせここの蛇は俺が全部討伐しないといけないんだから。

 袋詰めにされた七色の長細い卵を嫌そうに見ている。

 ここには蛇が35匹もいたから、卵もえらいことになってる。


「オムライスいっぱい作れそう」

「この任務終わったら、作ってみようか」


 米を調達しないといけないけど。


「さて、次は俺の任務だ。ターリャは離れて隠れてなさい」

「はーい」


 ターリャが隠れたのを確認してから盾を戻した。


 寝ているうちに討伐すれば楽なんだけど、こいつら寝ていると黒くなって体が鋼鉄化する。

 そうすると何の攻撃も効かない。


「初めに起こさないといけないってのが、めんどくさいよな」


 すぐ近くの巣穴に近付いて蛇の前に行く。

 レインボウ・スネークは全長3メートル。

 色によって、口から吐き出す魔法が六種類変わる。


 先読みしやすいけど、一匹起こすと皆起きちゃうのが難点だ。

 そして一斉攻撃。

 厄介な相手だけど、大体の攻撃方法を把握している分、案外なんとかなる相手だ。


「さて、やりますか」


 蛇退治。








 バッグからレインボウ・スネークを取り出した。


「これで、終わりです」


 35匹のレインボウ・スネークをカウンターに並べた。

 それを受付の人が鑑定スキルで判定している。

 大体の妖魔は部位の一つで1討伐って感じなのだが、このレインボウ・スネークは使えるところが多いので、体丸々一つで1討伐扱いだ。


「…あれ、情報よりも多いな……」


 ぼそりと受付が呟く。


 確かに依頼書には18匹って書いてたもんな。

 移動してきた群れが合流でもしたのか。

 どっちにしても寝起きの蛇だから大したこと無かったけど。


「はい。確認しました。こちらのカードを向こう側にある換金所へと提示してください」

「はい。では、弟子の方もお願いします」


 ターリャに席を空けると、ターリャが頑張ってよじ登ってきた。木登り訓練の成果が出てる。


「ふんっ。 ええと、……うーん?」


 ガサゴソとバッグを探っている。

 あれほど整頓しとけど言ったのに…、バッグから関係の無い石ころやらビーチガラスを取り出してカウンターに並べている。


「あった!」


 ずるりと、ようやくターリャが卵を取り出した。


「お願いします!」

「け、結構取ってきましたね…」

「たくさんいたものですから」

「なるほど…」


 プニプニと受付さんが卵を仕分けしながら鑑定してる。


「トキ、さっきから思ってたんだけど」

「なんだ?」

「蛇の卵変な形だよね」

「蛇はあんな形の卵なんだよ。ちなみにコカトリスもあんなだ」

「へぇー!」


 しかし殻は硬いしでかいから、トンカチ必須だった。


「完了です。では、えー、ターリャさんもこのカードをあちらの換金所へと持っていってください」

「はい!」


 初めてのクエストで貰ったお金をターリャは嬉しそうに握りしめている。

 財布買うか。

 可愛いやつ。


「ターリャ、そのお金はターリャのだから好きなのに使っていいぞ」

「ほんと!?じゃあねー、そうしたらねー」


 何を買うかな。

 お菓子か、アクセサリーか。


「トキに卵菓子買ってあげる!」

「へ?」


 いやなんで俺に!?


「いやいや、ターリャの好きなもの買えって」

「ターリャはトキにいつも美味しいもの買って貰っているから、今度はターリャがトキにおごりたいの!」


 なるほど。

 そうきたか。


 でも、ここで突っぱねるのはあれだしな。

 せっかくのターリャの心遣い。


「よし、じゃあお店にいって、卵菓子があったらな」

「うん!」







 そんな感じでターリャに経験を積ませるためにこの街に滞在し、簡単なクエストを受けていく。

 ついでにターリャに敵から逃げる身のこなしもちょろっと教えながら、体力も鍛えさせていった。


 そうして早一週間。


「みてみて!財布いっぱい!」


 ターリャのお財布は膨らんだ。

 クエストを完了させる度にターリャは俺にデザートを奢るという謎の儀式が出来上がり、行きつけのお店で『デザートおじさん』等とあだ名がつけられてしまった。


 ターリャが楽しいなら良いけど、このままだと俺の腹が危うい。

 仕方がないので、運動をすることにした。


「ターリャ、次の任務は歩くぞ」

「場所が遠いの?」

「それもあるが、ちょいとな」

「?」


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