第11話 デートについて検討しました



「デート、ですか?」


目をぱちくりさせているリュシアンに、私は頷いた。


「そう。今からどうかしら」


「今から?!」


あ、やばい。リュシアン引いちゃったかな。


私は口元に手を当てて「おほほ」とお嬢様ポーズを作る。


「ごめんなさい。わたくしとしたことが、急なお申し出だったわね。再会できたことが嬉しすぎて、つい舞い上がってしまったの。また今度改めてお話しましょうね」


「姫様と僕が、デート……」


眼鏡の奥で、リュシアンの目がとろけている。


「じゃあ、リュシアン。わたくしたちはこれで」


「あ、姫様!」


呼びとめられて振り向くと、リュシアンは頬っぺたをりんごみたいに赤く染めて言った。


「ぼ……僕もデ、デ、デ、デデデート」


「デートしてくれるの?!」


目を輝かせて尋ねると、リュシアンはぶんぶんと首がちぎれそうになるほど頷く。


「姫様さえよければ、僕と……デートしてください!」


「ありがとう! 嬉しいわ」


アキトがこほん、と咳払いして目配せをする。


「何よアキト」


「お嬢様。公爵令嬢ともあろう方が、自ら男性をお誘いになるのはいかがなものかと」


「しょうがないじゃない、こうでもしなきゃデートにたどりつけないんだもん」


「そのデートに対する情熱を、少しでも礼儀作法に傾けていただければ……」


アキトは嘆いている。


確かに普通のお嬢様とは、著(いちじる)しくかけ離れた行動に違いない。


「姫様……? 僕、何か失礼なことをしてしまいましたか」


おずおずと、不安そうにリュシアンが尋ねる。


「いいえ、全く! さあ、そうと決まったらさっそくデートに行きましょう」


胸を張ってどや顔で言ったはいいものの、私は気づいた。


「……デートって何をしたらいいの?」


アキトが隣で、ずるっと崩れ落ちそうになる。


「お嬢様……」


「だってだって、デートなんてしたことないんだもん!」


今世はもちろん、前世でもどちらかというと陰キャだった私は、デートなんていう華やかなものと無縁な日々を過ごしていた。


二十五歳で人生を終えるまで、恋愛らしい恋愛もしたことがない。


「アキトはデートしたことある?」


「ありません」


秒で答えが返ってきた。


「本当? イケメンだから言い寄ってくる女の子いるでしょ」


「イケメンとは何ですか? お嬢様が生まれたときから片時も離れずお仕えしているわたくしに、いつ他の女性とデートするお時間があるのでしょう。教えていただけますか」


立て板に水の調子でまくし立てられて、私は「お、おお……」と引き下がる。


「分かった、分かったわよ。じゃあ知識でもいいから教えて。デートって何すればいいの?」


「はあ……。デートとは想い合う男女が二人で時間を過ごすことであり、何をするかについて具体的な決まりはないかと存じますが」


「何よその呆れた目は。失礼しちゃうわね」


「あ、あのう……」


リュシアンは遠慮がちに口をはさむ。


「あ、リュシアン。ごめんなさいね、私も初めてのことだから慣れていなくって。あなたはデートしたことある?」


「い、いいえ!」


「やっぱりそうよねえ……」


完全にしくった。


こんなに早くチャンスが来るのなら、眼鏡男子との制服デートについてあらかじめ完璧にシュミレーションしておけばよかった。


私は前世の記憶を総動員して、デートというものについて考え直してみた。

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