第86話 執事の話?

レフトンたちは門の前にまで場所を移してから執事の話を聞くことにした。万が一、ソノーザ家側の者に聞かれることが内容に配慮してのことだ。もっとも、不気味なほど静かになったソノーザ家に盗み聞きするような者はいなさそうだが。


執事の名はウォッチ・オッチャーという。長年、ソノーザ家に仕えてきた老執事だ。何でも今の当主の祖父の代から仕えてきたという。しかし、今の当主であるベーリュ・ヴァン・ソノーザがあまりにも出世に固執するようになってからは、ソノーザ家全体に失望を感じていたそうだ。その思いに気付いたある第三者によってレフトンと協力関係を結ぶまでに至ったそうだ。


「旦那様は今の自分には必要ないとしてご両親を唆して追い出してしまわれました。弟君であるフィリップス様が出て行ったことをいいことに田舎へと追いやられたのです。挙句の果てに、取り巻きの方々の家にうまく借金と罪をなすりつけました。ご自身の失敗を隠蔽するためでもあります」


取り巻きの家と聞いて三人はそれが没落したとある貴族の家だと理解した。三人はレフトンを中心にソノーザ公爵家の過去まで調べてきたため、すぐに思い至った。


「その取り巻きの家が…」


「コキア子爵家というわけか」


「…………!」


レフトンとライトはエンジを振り返った。エンジは怒りの形相で震えていた。ソノーザ家に、ベーリュ・ヴァン・ソノーザに対する怒りで煮えたぎっているのだ。


「なんてことを……! やはりそういうことだったのか! ベーリュ・ヴァン・ソノーザを許せん……俺はもう自分を抑えられない……!」


今にも剣を手に持って屋敷に乗り込もうとするような雰囲気になってしまったエンジは屋敷を睨めつける。それに危機感を抱いたレフトンは肩を掴んで必死になだめた。


「落ち着けエンジ! お前らしくもないぞ! ベーリュ・ヴァン・ソノーザは法で裁いてみせると俺は言ったはずだ! 周りをよく見ろ。うまく奴を罪人として追い詰める筋書きはできているだろ!」


「だがレフトン! 俺にとってミルナは大切な幼馴染なんだ! コキア家の人たちもいい人たちだった。そんな両親を亡くしたミルナがソノーザ家で侍女として働かされているなんて! あいつらは彼女を何だと思って、」


「そのことなんだけど、ミルナ・ウィン・コキアは自分の意思で働いているんじゃない?」


「何!?」


ライトもエンジをなだめる。ただ、レフトンのように必死ではなくエンジの正面に立って落ち着いた様子で、それでいて真剣な目でエンジの眼を見て、自身の見解を述べた。今のエンジのためにも、ミルナの状況を整理して考える必要があると判断したのだ。


「君の言う通り君の幼馴染みにとってソノーザ家は憎むべき家のはずだ。そんな家で侍女として働くなどよほどの理由がある可能性が高い。復讐のためとかね」


「「っ!」」


「だけど、ここに居るウォッチさんはミルナ・ウィン・コキアの素性を知っていた。それはすなわちソノーザ家に恨みを抱いている可能性が高い侍女を彼は雇ったことになる。長く仕えてきた執事としてあるまじき行為のはずだが、現に彼女はこの屋敷で働くことになった。それは何か理由があるはずだ。例えば、彼女のために想ってのことだとか、ね?」


「ミルナの、ためだと? どういうことだ!」

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