第79話 周囲の評価?

「周囲の人望が薄い? そんなことは絶対無い!」


「本当に冷酷無情? そんなはずがありません!」


「ふ、二人とも、何を言って、」


動揺するナシュカの言葉をバートは遮って吠えるように自身の思いを語った。


「何を言って、はお前の方だ! 人望なら十分あるだろ! 分からないのか、俺たち二人と王族の家族の方々がどれだけお前のことを信頼してるのか! 本当に人望が薄いなら、俺は、俺達はお前の側近なんかとっくに辞めてるよ!」


「バート……!」


更にバイラもそれに続く。しかも、普段の彼女らしくなく激しい感情を見せた。


「本当に冷酷無情なはずがありません! 愛国心が高く、王族として誇り高く、家族を思うナシュカ様は王族の中で一番心優しいお方だと私達は信じています! それなのにナシュカ様自身がそんなこと言うなんて……私は、私はすごく悲しいです!」


「バイラ……!」


ナシュカは気付いた。二人は自分に怒っている。ただ、怒りだけじゃなく本気で悲しんでいたのだ。バイラに関しては目に涙さえ浮かんでいた。


「国王陛下や王妃様、それにお前の兄二人だってあんなにお前に期待してるし頼りにしてるじゃないか! それはお前の能力が高いからっていう理由だけじゃない。お前が本当に国を思う優しい奴だからだ! ずっと前にカーズ殿下とレフトン殿下もそう言ってたんだぞ!」


「なっ!? あのカーズ兄さんとレフトン兄さんが、そんなことを……!?」


「あのお二人だけではありません! お二人の側近の方々も同じ思いのようでした。側近同士の茶会に参加した時に、カーズ殿下の側近の方とレフトン殿下の側近の方々もナシュカ様のことを汚れ役を自ら買って出る優しいお方だと口にしておりました! 周囲の評価の全てが悪いことばかりではありません!」


「あの人たちもか……!?」


ナシュカは目を見開いて驚いた。自分の知らない事実を側近二人から聞かされるとは思っていなかったのだ。それに知らされた事実の方も驚かされる。


ウィンドウ王国の王家の子供は側近を二人から三人までもつことができる。カーズは宰相の息子と伯爵令息の二人、レフトンは子爵令息と平民の少年の二人、そしてナシュカは伯爵家出身のバートとバイラだ。ただ、彼らは誰もが使える王子に忠実というわけではない。


「(彼らは……結構曲者ぞろいなのに……)」


カーズに仕える側近は親の意向で従っているだけに過ぎないし、利益を求めてレフトンに情報を流す時もあるため信用は薄い。


レフトンの側近は彼自身がスカウトした人物だが、出自・経歴を無視して決めたため周囲を驚かせた。本来なら平民がなれること事態あり得ないはずだったがレフトンは強引に決めた。そのためかレフトンの側近は地位こそ大したものではないが主との絆は深い。


ナシュカも自分で決めはしたが、レフトンとは違って出自・経歴を十分注意して決めた。そのため、地位も信用も十分ある。


そういう経緯で王子によって側近に大きく違いが出たのだ。

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