第75話 タイミング?
「……マリナ様、貴女には本当に感謝していますが、カーズ兄さんの不祥事を今話してくださったのは何故ですか? 貴女ならもっと早い段階で伝えられると思うのですが?」
「それはカーズ殿下が王家の方だからです。下手に王家を敵に回す可能性を考えると、成り上がりの男爵家の立場では分が悪すぎます。下手をすれば切り捨てられるでしょう。ですが、カーズ殿下がサエナリア様に酷く罵ったせいでサエナリア様が家出した今ならばと思いまして」
今のカーズの立場が悪くなっているから王家も庇うことは無いでしょう、と遠回しに言われてナシュカは気付いた。
「要するに、カーズ兄さんの立場と周囲からの評価が下がったことで、我々王家や有力貴族もカーズ兄さんを下手に庇おうとしなくなった。そのタイミングにつけ込んだわけですか。いやらしいことしてくれますね」
「おっしゃられる通りです。サエナリア様もタイミングを見計らって、とおっしゃられていました。ですから今ならと思いまして」
「「……(この人は……!)」」
ナシュカは皮肉な笑みを浮かべた。確かに今ならカーズに関する悪い情報を告発しても王家に睨まれることは無い。何しろ、学園ではカーズが他の女に走って婚約者を裏切った挙句に罵って心を傷つけたという話でもちきりなのだ。評価は最悪だ。しかも、王家の血筋のせいなのか全ての校舎・学年でその話が広まっており、学生を通じて貴族の社交界にまで及んでいる。貴族の社交界で耳をすませば『今度の王太子は最低だ』とか『王家の恥さらし』とか、嫌でも耳に入るだろう。
「ふふふ、貴女は僕の予想以上に面白い人のようだ。気に入りましたよ」
「「っ!?」」
「恐縮です」
側近二人は素直に驚いた。ナシュカがこんなことを言うことは滅多にない。つまり、マリナはそれほどの人物だということを意味している。話してみて当然といえば当然だが、側近の二人にとっては珍しくて仕方がなかった。複雑な気持ちも抱いてしまう。
「「……」」
「いつの間にか兄さんの話に戻ってしまいましたが終わりましょう。もう一度本題に入らないと」
「そうですね。サエナリア様のことなら次は何を話しましょうか?」
カーズの話に脱線したが、サエナリアの話に戻る。だが、ここでナシュカにとって悲劇が訪れてしまう。扉からノックする音が聞こえてきたのだ。それを聞いてその場にいる全員がハッとした。
「「「「(え!? まさか、このタイミングで!?)」」」」
ナシュカは嫌な予感がすると思った。しかし、だからこそ通さないわけにはいかない。相手が予想通りの存在ならなおさらだ。
「……どうぞ(この感じ、間違いないな)」
入ってきたのは王家から派遣されたであろう役員だった。ナシュカは予想はしてはいたが、見るからに深く落胆した。彼の楽しい話し合いがこんなタイミングで終わってしまったのだ。
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