第52話 日記〇〇年××月〇2日
―フィリップスの日記より―
〇〇年〇×月〇2日
兄さんは屋敷に帰ってきて、珍しく機嫌よさそうだった。何があったのか父上が聞いてみた。
「ベーリュ、随分と嬉しそうじゃないか。何があったんだ」
「父上、喜べ。俺は今年入学したジンノ王太子殿下の取り巻きになれたんだ」
「何だって、王太子殿下の取り巻きだと!?」
「本当なの、ベーリュ!?」
「ベーリュ兄さま凄いわ!」
「っ!?」
これには私も驚いた。今年、王太子殿下が入学していると聞いたが落ち目の我が家には関係のない話だと思っていた。それがこんな形でかかわることになるなんて、一体どういうことなんだ……?
出世したい兄さんが機嫌がいいのは分かる。これなら王太子の評価次第でソノーザ家の評価は変わってくるだろう。それにしても、貴族のトップと言ってもいい王家と縁がなかったのにどうして兄さんが取り巻きに?
「でも、どうして殿下の取り巻きになど慣れたんだベーリュ?」
「ああ、実は王太子殿下の婚約者のエリザベス様の取り巻きが平民の女を苛めててさ。苛めをやってた女は辺境伯の令嬢だったんだけど、それを俺が告発してやったんだ。そしたら、立場が上の相手を告発したとかで殿下が俺を勇気ある人物と言ってくれて取り巻きに入れてくれたってわけさ」
「ほーう、それはいいことしたな」
「立派よベーリュ」
「ベーリュ兄さま……」
え? 辺境伯の令嬢? うちより立場が上じゃないか! 何してくれてんの! 父上も母上も呑気な反応しないでよ!?
「兄さん、それってマズくないのか? 辺境伯の令嬢を訴えたっていうことは、下手したら辺境伯に喧嘩を売ったと受け取られるようなものじゃないか!」
「ん? フィリップスか。慌てるな、それは大丈夫さ」
「何が!?」
「その辺は王太子殿下がきっちり後ろ盾になってくれるって約束してくれたからさ。それだけじゃない。エリザベス様もこのことを知って、殿下と一緒に直々に問い詰めてくださったんだ。だから大丈夫さ」
殿下が後ろ盾? 婚約者のエリザベス様も? お二人はまだ学生なんだけど……。
「お前が何を心配してるかは分かる。だが、今は入れが有利だ。相手の苛めが陰湿極まりなくてな。学園で広まっているんだ。殿下も陛下に知らせてくれたらしいからな」
「え?」
陛下というのは国王陛下のことか? 厳しい性格だというあのお方が学生の小競り合いに口を挟むだろうか?
「というわけで俺は何とか出世に繋がる道に入ることができたというわけだ。今日は宴だ!」
「ははは、そうだな。我が家が王家の方と縁ができるのはいいことだしな」
「そうね。宴の準備をしなくちゃ」
「わーい!」
「…………」
王太子の取り巻き。例えるなら雑用係を担うことを指す。うまく関係が続けば側近にもなりうる。だけど、それは学生の時だけだ。でもまあ、今回くらいは喜んでいていい……かな?
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