第48話 (41裏側).日記?

カーズが謹慎のために情けない姿で連れていかれた後、気持ちを切り替えた国王は控えていた家臣達に指示を出す。


「行方不明になったというサエナリア嬢の捜索を開始せよ。少しばかり規模を大きくしても構わん」


「「「「「はい」」」」」


国王はサエナリアの捜索を行うつもりでいた。本来なら、王家が一貴族の娘を捜索するなどあり得ないが、サエナリアは王太子の婚約者であり、国王ジンノにとって息子の婚約者だ。そんな彼女を探さないはずがない。だが、それ以上に彼女が数少ない有能な人物というのも探す理由だった。


「(優秀なサエナリアは王妃の器として期待できる。残念ながら、現時点では彼女以上の令嬢はいない。ソノーザ公爵家のことは酷いが、息子たちの現状を考えると、多少の問題など無視しても構わんだろうな)」


国王にとって、息子たちの誰かが新たな王になるのは不安が残ってしまうことだった。長男のカーズは文武両道で成績優秀などと言われているが、どうにも思い込みが激しい面がある。それが原因で婚約者が行方不明になってしまった。


次男のレフトンは運動神経が高く要領がよく、貴族平民分け隔てなく接する明るい性格だが、口調とふるまいが王族どころか貴族らしくない。本人も貴族ではなく騎士になって王国を支えるんだと言っているような男だった。確かに騎士として実力的にはかなり強いのだが、身内としてはもう少し立場を考えてほしいものである。


三男のナシュカは小柄だが冷静沈着で頭脳明晰で政治的能力において期待されるが、感情表現に乏しく冷徹な判断を平気で口にできることから冷酷で残忍なのではないかと思われがちであるため周囲からの支持率は低い。本人もそういう批判を耳にしているようだが気にするそぶりもない。


「(……だからこそ完璧な王妃が必要だった、それがサエナリアだった)」


三人の誰が新たな王になっても不安を残すくらいなら、次の王妃に期待するしかない。だからこそ、しっかり支えていける女性が必要になった。それがサエナリア・ヴァン・ソノーザ公爵令嬢だったのだ。事前に調べた彼女の詳細から、適任だと決まった。他の令嬢の中にも候補がいるが、あまり期待できない。


「(カーズの馬鹿者のせいでサエナリアを失うわけにはいかん。今更選び直すなど遅いとは言わないが、彼女を次期王妃にできないのはあまりにも惜しい。少しとは言わず大規模な捜索に出てもいいか?)」


国王がサエナリアの捜索について思案を巡っている時だった。宰相のクラマ・ナマ・クーラが気になる進言を口にした。


「陛下、カーズ殿下がソノーザ公爵家から持ち出した日記帳なのですが、」


その言葉を聞いて国王は眉間にしわを寄せた。


「ああ、あれか。何か分かったのか?」


国王の言葉に嫌そうな気持ががこもるのも無理もない。カーズはソノーザ公爵家から王宮に戻ってきてすぐに、側近の一人にある日記帳を預けて「読み進めて手掛かりを見つけてほしい」と言ったらしい。もっとも、その側近は父親である宰相に渡してしまったのだが、その話を聞いただけで国王は息子に呆れたものだった。


「王太子とあろう者が婚約者の日記を勝手に持ち出した挙句、他人に手渡すなど貴族のマナーどころか人として問題だ。いくらサエナリア嬢が行方知らずになったからと言って、そのような行為は、」


「いいえ、あれはサエナリア嬢の日記ではありませんでした」


「何? どういうことだ?」


「彼女のものではなかったの?」


意外な事実を聞いて、国王と王妃、それにその場にいる誰もが驚いた。カーズが勝手に持ってきたものだから、てっきりサエナリアの日記帳だと思われていたのだ。


「あれはフィリップス・ヴァン・ソノーザという人物のものでした」


「フィリップス・ヴァン・ソノーザだと?」


「ソノーザ家の親族の方?」


「現ソノーザ公爵の弟です。今は行方知らずですが」


「「!」」


宰相の言葉で国王と王妃は思い出した。現ソノーザ公爵ベーリュ・ヴァン・ソノーザに弟がいたことを。兄であるベーリュに匹敵する才覚の持ち主であったこと、そして突然いなくなったことも。


「この日記には彼の視点における当時のソノーザ家の全貌が記されていました」


宰相の目にからただ事ではないと推測した国王は日記の内容について自らも知ることになった。

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