第23話 覚悟?
ただ、面倒なのは目の前の男だった。しかも王太子。
「(後は王太子をどう言いくるめればいいかだな……)」
カーズにはサエナリアの家出の理由がそういう事情ではないことは知られているが、サエナリアが王太子から身を引く理由の方がよく分かっているはずだ。これを武器にすれば言いくるめられるはずだ。それに男爵令嬢のこともある。後で、その令嬢の家に王太子との関係をほのめかせば、上手くいく。ベーリュはそんなふうに思った。
「(我が娘を蔑ろにして男爵令嬢を囲むような男だ。王家からそれ相応の罰を受けても問題あるまい)」
そんな風に思っていたベーリュだったが、ゆっくりと顔を上げたカーズの顔を見て驚いた。その目には決意に満ちた顔が出来上がっていた。嫌な予感がするベーリュは恐る恐る声を掛ける。
「で、殿下、いかがされましたか?(何だこの目は?)」
「公爵、今すぐサエナリアを捜索する準備をせよ。私はこれより王宮に戻って、父上……国王陛下にサエナリアの捜索を願い出る」
「こ、国王陛下に!?」
ベーリュは愕然とする。王家の力を借りてサエナリアの捜索を開始するということは、その背景まで徹底的に調べられるということだ。もちろん、公爵家の内情を知ったカーズも事情聴衆が行われることを意味する。つまり、
「(まさか!?)あ、あの我が家は、」
「私からすべて話すし、公爵にもすべて話してもらう。私とサエナリア、そしてマリナの関係はもちろん、公爵家の家庭事情もだ」
「!? そんなことをすれば殿下もただではすみませんぞ!? 本気ですか!?」
「本気だ、覚悟はできている。王太子の地位も剥奪されるだろうな。だが、そうなっても仕方がないことを私はしてしまったのだから当然だ」
「(マズい、マズいぞ!)そんなことになれば我々は日を見ることはなくなります! もっと穏便に、」
「そんなことはどうでもいい! たとえ全てを失うことになってもいい! 私はサエナリアにも、マリナにも、償いたいのだ!」
「…………(もう駄目だ)」
ベーリュは膝から崩れ落ちた。王太子に公爵家の内情、家族関係を調べ上げられると言われたのだ。これで公爵家の醜聞は確定されたようなものだ。国王がカーズの願いに頷けば間違いない。王太子の婚約者の捜索だ、探さないほうがおかしい。
「公爵。私には貴方の娘と婚約破棄するつもりはない。マリナとは友人でいこうと思っているからな。だが、公爵家との付き合いは考えさせてもらうとしよう」
それだけ言って、カーズは客間を後にした。残されたベーリュは崩れ落ちた姿勢のまま、呆然とした。考える気力が戻るのに少し時間がかかった。その間にカーズ王太子がサエナリアの部屋に入ってしまうことになるとも知らずに。
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