第22話 婚約解消か婚約破棄?

今のベーリュにできるのは、これまでのことを反省すること、そして、これからの算段を考えることだった。


「(くそっ、学園でそのような三角関係が出来上がっていたとは思わなかった。そうと知っていれば、サエナリアの家出の責任を王太子と男爵令嬢になすりつけたというのに……!)」


ベーリュはこの場で一人になれたら、地団駄を踏みたかった。貴族の通う学園は閉鎖的で情報が外に漏れにくい。ベーリュの知っているサエナリアとカーズ、それに男爵令嬢マリナの三角関係がはっきりしていれば、公爵家に非がない形で王家を巻き込んだ大捜索だってできたのだ。そうすれば、公爵家の取り調べも最低限に留まるはずだった。何か弱みを知られることもなかっただろう。


もっと詳しく知れていれば……そんな風に思わずにはいられない。


「(ワカナが馬鹿なことを口にしなければ!)」


もはや今更遅い。何せ、王太子に知られてしまった。それも、次女の口から知られてしまった以上、公爵家に全面的に非があるとしか思われないのだ。取り調べはソノーザ公爵家を中心に厳しく行われてしまうのは間違いない。サエナリアは王太子の婚約者なのだから。


「(こうなっては仕方がない。国王陛下に直々に弁明しに行くしかない。娘と王太子の婚約を無効にして、公爵家だけで捜索するようにしなければ!)」


ベーリュの考えた作戦。それはサエナリアとカーズの婚約解消か婚約破棄だった。サエナリアがカーズの婚約者から外れれば、王家が動く理由はない。公爵家だけで捜索できるだろう。ただ、婚約解消か婚約破棄のどちらを取るかが問題だ。


婚約解消なら、婚約の白紙になる。両者に問題がないということで穏便に終わるはずだ。せいぜい、公爵家の問題でサエナリアが家出してしまったという話になるだろう。醜聞は免れない。


婚約破棄なら、婚約の白紙ではない。どちらかに問題があって、令嬢が傷物になることを意味する。公爵家から王家に非があって、問題をなすりつけられるかもしれない。サエナリアが傷物になるだけで公爵家の負担は軽くなるかもしれない。


「(婚約解消か婚約破棄。我が家の負担を極力減らせるなら後者のほうがいいが、それだと王家も捜索に乗り出す可能性がある。いや。それ以前に王太子に知られてしまった。難しいだろうな)」


ワカナの言動に絶望し、カーズの気迫に押されて、サエナリアのことをしゃべってしまった。カーズが王太子として非があるにしても、サエナリアの家出とは別問題だ。王家の問題と言えるか微妙だ。


「(……やむを得ん。サエナリアの家出の件はサエナリア個人に問題があるということで婚約解消にするしかない)」


ベーリュはサエナリアの令嬢人生を切り捨てることで穏便に済まそうと決めた。サエナリアが王太子から身を引きたくて勝手に家出してしまったことにして、こちらから婚約解消する。こういう段取りでいこう、と。

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