337話 輪廻の転生者アベル
二冊の魔王伝を読み終えたおれはこれまでの謎をいくつも解き明かすのであった。
そして、扉の奥の男へ呼びかける。
「読み終わったぞ……。お前がアルフレッドだったんだな……」
すると、彼はおれの問いかけに答えるのであった。
『そうだ……私の名はアルフレッド。精霊アルフレッドだ。そして、かつてシャロンの仲間であり、彼女の苦しみを理解してやれなかった愚かな男だ……』
これまで聞いたことのない悲しげな声で、アルフレッドはそう答えるのであった——。
「なぁ……この魔王伝に書かれていることは本当なのか? 全部作り話とかじゃないのかよ」
そこに書かれていた未知の情報が多すぎたため、思わずおれはそう問いかける。
だが、アルフレッドは冷静に淡々と答えるのであった。
『真実だ……。この扉を挟んだ状態でも、お前は薄々は気づいていただろう? 私とお前の繋がりを——』
その言葉の意味をおれはよく理解していた。
そうだ……ここにやって来たときから薄々と気づいていたんだ。
この扉の奥から感じる魔力は、おれが持つそれと同じ魔力だって——。
そして、おれが納得したのを確認するとアルフレッドは語り出す。
悔やんでいる自身の過去について——。
『かつて……私とシャロンは理想を信じていた……。このチカラさえあれば、平和な世界を創り、みなが安心して暮らせると……。そして、みなで幸せになることができると……』
『だが、私たちは裏切られた……。いいや、最初に彼らを裏切ったのは、もしかしたら私たちの方なのかもしれない……。人が持つ際限ない欲望とは本当に浅ましいものだと思ったよ……』
おれが読んだ魔王伝にはアルフレッドとシャロンについてのことも書かれていた。
アルフレッドはシャロンを含めた何人もの同志を集め、平和な世界を望んでいた。
だが、その夢は人々が持つ欲望の渦に呑まれて儚くも崩れ去ってしまったのだ——。
『結果として争いが起こり、私はこの手で多くの者の命を奪った。今まで仲間だった者たちを……私を慕ってくれていた者たちの命を……この手で刈り取ったんだ……』
『そして、最後には何よりも愛していたはずのシャロンすら、この手で殺めた……。一人で悩み苦しむ彼女の気持ちを、私はわかってやれなかった……気づいてやれなかった。それに気づいたときには、もう彼女は私の知る彼女ではなかったのだ……』
そうだ……。
アルフレッドはシャロンを救うことができなかったのだ。
彼は一人で悩み苦しむシャロンに気づくことができず、暴走した彼女を彼はその手で滅ぼしたのだ……。
『苦しかった……。私にもっとチカラがあればこんな結末にならずにすんだ——。そう後悔しながら私は生涯を終えたんだ……』
やり切れない想いを抱えた彼のその言葉は、この地下の空間に静かに響き渡るのであった——。
そして、ここからアルフレッドに起きた奇跡が語られる。
『だが、奇跡は起きた——。私の死後、魂は二つに砕け、長い歳月を経てそれぞれが受肉したのだ……』
『もう二度と大切な者たちを失いたくはない、裏切りたくはない、殺めたくはない。今度こそ、平和な世界を創りたい——。そう最後に願った意志を受け継いだ魔人ヴェルデバラン』
『もしもやり直せるのならば、愛すべる人を一番に考え、彼女だけを護り通したい——。そう最後に願った意志を受け継いだ精霊アルフレッド。つまり、今の私だ』
アルフレッドの魂は死後、二つに分離したという。
そして、肉体に魂が残る魔人ヴェルデバランと、魔力に魂が宿った精霊アルフレッドとしてそれぞれが生を受けたのであった。
『私たちの魂は元々ひとつであった。だからこそ、我々の魂は
ここまで説明されれば嫌でも理解する。
魔王伝を読んだ今のおれにはわかるのだ。
「じゃあ、おれの正体っていうのは……。やっぱり……」
なぜ、おれと精霊アルフレッドは同じ魔力を持っているのか。
どうして、おれは魔王伝が封印されていた箱をいとも簡単に解くことができたのか。
そして、魔王伝に書かれていた魔王ヴェルデバランの人生の結末——。
『そうだそれが真実だ……人間アベル。いや、魔人ヴェルデバランよ。お前は未来の自分へのメッセージとしてこの魔王伝という記録を遺した』
アルフレッドがはっきりとそう強く主張する。
おれは魔王ヴェルデバランの転生者なのだと——。
そうか……。
カシアスたちが言うように、おれは本当に魔王ヴェルデバランの転生者だったのか。
そこでおれは魔王伝に書かれていたことを改めて思い出す。
この世界に隠されている真実と、今のおれがしなければならないことを……。
魔王伝——。
そこにはおれが想像もできないことが書かれていた。
この魔界と人間界をはじめとする下界の歴史——。
そして、かつて起きた古の時代の大戦——。
それによって今、水面下で起きている全種族の存続をかけた天使シャロンと精霊アルフレッドの戦い——。
それから魔人ヴェルデバランの人生についてだ。
彼がリノやカシアス、アイシスと出会い魔王となったこと——。
そして、最後には転生魔法を使い転生したこと——。
かの魔王は転生することによって、自らの記憶が消えてしまうことを危惧したのだ。
だからこそ、魔王の意志を伝える手段が必要であると考えた。
そして、自分と同じ魔力を持つ未来の転生者にのみ解ける封印を施して、その生涯の記録を託したのだ。
未来の自分に繋げるために——。
つまり魔王伝とは、魔王ヴェルデバランの意志を伝えるものだったのだ。
「お前のおかげで色々とわかった。ありがとうな、アルフレッド。そして、ヴェルデバラン……」
おれは少し照れながらそうつぶやいた。
そして、アルフレッドに向けて語り出す。
「それに
魔王ユリウスはかつておれに言っていた。
おれの場合ならば、目の前に助けを求める者がいれば救いたいと思ってしまうものだと彼は話していたのだ。
『確かに、これは呪いとも取れるだろう。だが、正確には呪いではない。これは《願い》なんだ……』
『かつてその生き方を、選択を、冒した過ちを、後悔しながら生涯を終えた者たちの、もしも一からやり直せたらと、そう切望した強い想い——《願い》が我らの魂に刻まれているのだ』
そうだ。
おれは平和な世界を創りたいと願ったかつてのアルフレッドの意志を継いでいる。
だからこそ、目の前に助けを求める者がいれば救いたいと自然に反応するのだ。
これは呪いではなく、願いなのだ。
そして、それは精霊アルフレッドもまた同様なのである——。
『だからこそ、私は今度こそシャロンを救いたいと願っている。あの時の誓いを護りたいと切望している。その為ならば、どんな犠牲だって厭わないと思っている』
扉越しに、アルフレッドの強い想いが伝わってくる。
そして、彼はおれに問いかけるのであった。
『魔王伝を読んでお前は真実を知った。その上で聞こうではないか。全てを知った今、お前はどうしたい?』
『シャロンのしてきたことを許せずに、彼女を殺したい滅ぼしたいと思うか? それとも……』
アルフレッドは言葉を言いかけて止まる。
そして——。
『それとも……今度こそ、彼女を苦しみから救いたいと思うか……?』
おれがどうしたいかって……?
ここまでおれに思い出させるような真似しておいて、何を言ってるんだか……。
「そんなの決まっているじゃないか……。おれの答えは——」
そして、おれはアルフレッドに再び誓うのだった。
◇◇◇
——魔王伝——
それは魔王ヴェルデバランの意志と魂を紡ぐ者たちの物語。
そしてこれは、かつて地球で不遇な人生を終えた少年が人生をやり直す物語。
異世界で《漆黒の召喚術師》と呼ばれた1人の少年の物語だ。
彼がこの世界で背負った運命は魔界と下界に暮らす全世界全種族の存続をかけた戦いに終止符を打つこと。
これからこの世界は、魔界と下界の全ての世界を巻き込んだ天使悪魔連合 vs 精霊魔族連合の《第二次霊魔大戦》へと発展していく。
そして、彼は精霊魔族連合のリーダーとして世界の為に命を賭して闘っていくことになるのであった——。
魔王伝 - 漆黒の召喚術師〈上〉- 竹取GG @taketori_okina2
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