329話 記憶の少女シャロン

  「さて、それではそろそろ終わりとしましょうか」



  シャロンは高らかにそう宣言すると、光輝く右手を掲げ、魔弾を振り落とそうとする。

  彼女の右手には、周囲から流れ込んできた魔力が渦を巻いて集まってくる。



  その姿はまるで、この世界に光を照らす女神のような姿であった……。



  だが、そんな絶望感な状況にも関わらず、おれの感情は恐怖ではなく、疑念に満ちていた。



  どうしてだろう……。

  どうして、おれは彼女を見て懐かしいと感じてしまうのだろう……。



  今もなお、その疑問がおれの頭をうごめいている。

  こんな危機的状況にも関わらずだ。



  どんどんと輝きを増していくシャロンの光属性魔法——。

  そして、それを見つめるおれの脳裏には、いつもの映像が流れ込んでくるのだった——。




  ◇◇◇




  そこはおれの知らない世界——。

  そんな知らない場所で、知らない少女とおれは二人でいた。


  おれの隣には可愛らしい金髪の女の子がいる。

  一面に広がる花畑で、彼女がおれに微笑んでいる。



  まただ……。

  またこの光景か……。



  何度も何度も、フラッシュバックするかのように流れてくるこの映像に、もはやおれは慣れすら感じていた。



  そうだ、この光景は何度も見たことがある。

  ユリアンやエストローデ、ハワードの光属性魔法を受けたときに、おれの脳裏にこの映像が流れてきたんだ……。



  そして、隣の少女がおれに語りかけてくる。



  「ねぇ、アルフ……。ボクたちこれからもずっと一緒にいられるかな?」



  おれに笑いかける金髪の彼女がそう呼びかける。

  そして、ここでおれは気づく——。



  シャロン……?



  姿が違うことから、今まで気づくことはなかったが、よく見れば金髪の少女は女神さまこと、天使シャロンによく似ている。

  いや、本人か……?


  自分のことを『ボク』と呼ぶシャロンは、その笑顔と瞳の奥に不安そうな表情が見え隠れさせていた。


  アルフ……。

  はたして、それはおれのことだろうか?


  そして、シャロンと向かい合うおれの口が勝手に動く。


  「そうだといいな」


  どこか照れを隠すような言い方だった。

  そんなおれのひと言を聞いて、彼女は満遍の笑みを浮かべる。


  「ふふっ。やっぱり、ボクたち考えてることは同じだね!」


  おれの胸に不思議な感情が湧き上がる。

  シャロンの言葉を聞いて胸の鼓動が高まるのを感じるのであった…….。



  これがシャロン……?

  今の彼女と、話し方も性格もまったく違うじゃないか……。



  おれは言葉に出して彼女に尋ねてみようとするが、それは声にならない。



  そうだった……。

  前回もおれの声は届かないんだった……。




  そして、唐突とうとつに場面は移り変わるのであった——。




  ◆◆◆




  辺りは業火に包まれている——。

  先ほどまで、一面の花畑であったはずの場所は火の海となり、真っ赤に染まる。



  そんな火の海のなかでおれは絶望して一人立ち尽くす。

  いいや、一人ではなかった——。



  目の前には、先ほどとは明らかに様子の異なるシャロンがジッとおれを見つめているのであった。

  その瞳は絶望に染まり、無気力におれを見つめている。


  おそらく、この荒れた世界にシャロンは深く関係があるのだろう。

  おれは直観的そう感じた。


  そして、彼女は感情を失った声でおれに呼びかける。


  「ねぇ、アルフレッド……。わたしと一緒に地獄へ堕ちてくれる……?」


  そう告げる彼女の右手には光が収束されていく——。

  そして、彼女は右手を空に突き上げた。



  まるで、今まさに魔界でシャロンがやっていた仕草と同様にだ——。



  この映像の内でも、シャロンはこの世界に光を照らすような姿で立ち振る舞う。

  そして、彼女の手が振り下ろされると同時に、おれは眩い光に包み込まれる……。


  その瞬間、おれの視界は光に埋め尽くされて何も見えなくなる。

  そして、ゆっくりとおれの口が動くのだった。



  「あぁ……。一緒におれが堕ちてやるとも……。だから心配するな。シャロン……」



  そう告げるとおれは静かに魔術を展開する。

  両手を合わせ、魔力制御と魔力操作を行い、術式を編み込んでいく。



  「破壊術式 《オメガ》!!」



  それから、両手を広げると魔法陣が周囲に展開されていき、おれの周囲を埋め尽くす。

  それらが闇を纏うとと同時に、周囲の光がおれの魔術に吸い込まれていく。



  そして、おれとシャロンの間を阻むものが綺麗に消え去るのであった——。




  「待ってろ、シャロン……。今、助けてやるからな」



  おれはシャロンが展開した光をかき消すと、真っ直ぐに彼女を見つめ、そう宣言する。



  そして、ここでおれは現実の世界に引き戻されるのであった——。

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