328話 乱世の夜明け
アイシスの放った魔法がシャロンを直撃する。
その圧倒的な魔力を含んだ魔弾は周囲を巻き込みながら巨大化していき、一瞬でシャロンを呑み込んでしまうほどの大きさとなる。
流石のシャロンとはいえ、これほどの一撃を喰らえば、タダでは済まないだろう。
しかし、おれが最後に見たシャロンの表情からは、決して焦りのようなものは感じなかった。
嫌な予感がする……。
そして——。
ギュウゥゥゥゥーーーッッンン!!!!!!
アイシスが放った闇の魔弾はシャロンに直撃したかと思うと、巨大化したそれは急激に縮小していく。
そして、おれたちの視界には右手を突き出したシャロンの姿と、その手に吸い込まれていく魔弾が映る。
なんと、シャロンは防御魔法を使うことすらなく、いとも簡単にアイシスの攻撃を防ぐのであった。
そして、その圧倒的な魔力量でおれたちを威嚇する。
グッ……。
急に、体が締め付けられるような感覚に襲われる。
どうやら、おれ以外のみんなも同様に苦しんでいるようである。
彼女が放つ膨大な魔力を前に、おれたちは立ち尽くすことで精一杯だったのだ。
そして、余裕を醸し出すシャロンは挑発に乗ってきたアイシスに問いかける。
「はて……? 転生して記憶を失っているはずの貴女が、なぜ今の言葉に怒る
口もとに指を持っていき、不思議そうにシャロンがつぶやく。
そして、彼女は何かに気づいたような素振りを見せると、ニヤリと微笑んで再びアイシスへと尋ねるのであった。
「さては、アイシス……。記憶を保ったまま転生する術を、貴女は身につけているとでもいうのですか……?」
シャロンは何もかもを見透かしたような瞳でそう問いかける。
まるで、彼女の中で答えは既に存在しているのにも関わらず、誘導尋問のような形でアイシスの口から引き出したいかのようであった——。
「おいおい、ありゃ想像以上のバケモノだぞ……。アイツが保有している魔力は並の魔王たちの比じゃなそうだ」
「流石、《原初の魔王》の転生者ってところか。今のオレらじゃ、時間を稼ぐことすら困難だろうよ……」
アイシスの本気の一撃を何なく無力化し、圧倒的な魔力を誇示したシャロン——。
そんな彼女の実力を目の当たりにしたウェインは、らしくない弱気な反応を見せる。
しかし、それでもウェインは自身を奮い立たせて雄叫びをあげるのであった。
「だが、迷っていても仕方ねぇ……。おい、全員で協力して何とかするぞ!!」
それでも彼は勇猛果敢に立ち向かおうとする。
しかし、中にはシャロンに歯向かうことを拒絶する者もいるのだった——。
「いや……。私にはできない。きっと、これは何かの間違いに違いないんだ……」
ゼシウスさんはというと、放心状態で敵対しているはずのシャロンを見つめている。
そんな彼の姿に、ウェインは失望した様子で舌打ちをする。
そして、アイシスに協力を願うのだった。
「チッ……。おい、アイシス! やるぞ!!」
ウェインの呼び声にアイシスは頷く。
それから、アイシスは再び魔力を込めて魔弾を放つ。
今回は一つだけでなく、複数もの魔弾をシャロンに向けて連射する。
そして、ウェインもまた魔王としての圧倒的な魔力をもってして波動弾を解き放つ。
しかし、それらがシャロンに届くことは決してないのであった——。
ドォォォォーーーーッッン!!!!!!
突如として、シャロンの前に光の結界が出現したかと思うと、二人の怒涛の攻撃はその障壁に阻まれ、無力化されてしまう。
そして、よく見るとシャロンの背後には七人の悪魔たちが彼女を護るようにして防御魔法を展開しているのであった——。
「ルシェン、シャノアール、カスティーオ……。それにクロム、ルノワール、フェリクス、バロン……。そうか、アイツは十傑の悪魔たちを従えているんだったな」
新たに出現した七人の悪魔たちを見たウェインが渋い表情でそう語る。
そうだった……。
今回の一件がシャロンの手によるものだとすれば、十傑たちの襲撃は彼女が仕組んだということになる。
つまり、十傑の悪魔たちはユリウスではなく、シャロンに忠誠を誓っているとみて間違いないだろう。
十傑の悪魔とは、魔王クラスの実力を持った上位悪魔だ。
それが七人もいるということは、戦力的におれたちは圧倒的不利であるということ。
これは中々にまずい状況だろう……。
しかし、さらに不幸なことにおれたちの絶望はここで留まるわけではなかった——。
「十傑の悪魔を従えている……? フッフッフッ……。何やら、勘違いしていませんか?」
パチンッ——
そう言って、シャロンが指を鳴らしたかと思うと、彼女の背後にはさらに五人の精霊体が現れる。
そして、その中にはおれの知る人物もいるのであった——。
「《賢聖の天使》魔王ゼノン、それに四大天使アガピア、オルキア、エクステリア、フォルスト……」
なんと、魔王序列第2位のゼノンまでもがシャロン背後に現れたのだ。
これにはウェインも渇いた声で笑うことしかできないのであった。
「ハハハッ……。マジかよ、ゼノンや四大天使たちまで従えているのか……」
あまりの戦力差に愕然とするおれたち。
そんな中、魔王ゼノンの姿を見つけたゼシウスさんだけは、消沈していた先ほどまでとは打って変わり、闘志を燃やすのであった——。
「ゼノン……。もしや、貴様がシャロン様を……」
ゼシウスさんはどうやら、正義の心を持っていたかつての精霊王であるシャロンが、天使へと転生して悪の心に染まってしまった原因は、魔王ゼノンにあるのではないかと睨んでいるようだ。
「クックックッ……。言ったろ、精霊王? 『正義』という名の清き思想は、それが真っ白であればあるほど、簡単に黒ずんでいくものなのだと——」
ゼノンはゼシウスさんの言葉を肯定することも否定することなく、そう答える。
そして、そんなゼシウスさんの怒り狂う姿を見て、彼は愉しそうにニヤニヤと笑うのであった。
「ゼノン、貴様……。私は絶対にお前を許さんぞ……」
今にも爆発しそうなゼシウスさんであるが、これだけの数の敵を一度に相手にするのは無謀だと理解しているらしい。
今にもゼノンに襲いかかりたいのを歯を食いしばって我慢しているようであった。
そして、ウェインはというと冷静にこの状況を分析している。
「魔王クラスの天使が四人と悪魔が七人、さらに魔王序列第2位の大天使がいて、親玉は《原初の魔王》の転生者ってところか?」
「対するオレらは、魔王が二人と上位悪魔が一人に、劣等種の人間が二人……。こりゃ、相手にするのは無理だな」
さらに、ユリウスやゼノンの配下と思われる上位悪魔や天使たちが次々と転移してシャロンの背後に出現する。
完全に個人の実力でも、数の戦でもおれたちは劣っており、劣勢であった——。
「さて、それではそろそろ終わりとしましょうか」
シャロンは高らかにそう宣言すると、彼女は右手を突上げ、その手に膨大な魔力を集中させる。
光輝く魔弾を掲げるその姿は、この世界に光を照らす女神のような姿であり、彼女はとても美しかった……。
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