281話 魔界の魔物(2)
ギュェェェェエエエエ!!!!
巨大な鳥のバケモノがクチバシをおれを目がけて急降下してくる。
しかも、クチバシを開いてだ!
おそらく、このままでは捕食されてしまうだろう。
なんとかあの巨大なバケモノを追い払わないと……。
そこでおれは大気中にあふれている魔力を体内に取り込み魔法を発動する。
鳥のバケモノに向けて手をかざし、
そして、おれの体よりも大きな闇の球体が螺旋状に回転しながらバケモノを襲うのであった。
魔力を大量に消費したせいか、それはいつも以上の桁違いの威力であり、発動したおれに物凄い反動が返ってくる。
だが、しかし——。
ギュェェェェエエエエ!!!!
叫び声をあげながら急降下してくるそのバケモノは、なんとおれの魔法をそのクチバシの中に放り込み、呑んでしまうのであった。
喰われた!?
なんと、あのバケモノはおれの魔法を防ぐでも躱すでもなく、呑み込みやがった!
しかも、怯むことなくおれを目がけてそいつはやってくる。
あまりにも衝撃的な出来事を目の前に、おれは驚きのあまり固まってしまう。
すると、おれの隣にいたカシアスが魔法を使って助けてくれるのであった——。
「
カシアスがひとつ魔法を発動すると、彼の手から空気を伝って氷塊が伸びてゆく。
そして、一瞬でその氷塊は鳥のバケモノに襲いかかり、やつは氷づけとなってしまうのであった。
ドスンッ!!
そして、氷づけとなったバケモノは重力にしたがいおれの正面に落ちてくる。
おれは目の前に落ちてきたバケモノの大きさにたまらず驚いてしまう。
氷塊のなかに体長10メートルはあるだろうと思われる恐竜のようなバケモノがいるのだ。
その迫力におもわず尻込んでしまうのであった。
そして、おれの側にアイシスがてくてくと歩いてくると、腰から魔剣を取り出して氷塊に閉じ込められたバケモノ粉々に砕く。
バリーーーーッッン!!!!
彼女は空高く飛び上がり、魔剣を振り下ろして氷塊もろとも一刀両断にするのであった。
中に閉じ込められていたバケモノもその衝撃で粉々に砕け散る。
そして、アイシスは座り込んであっ気にとらえているおれに向けて告げるのであった。
「魔界ではよくあることです。油断しているとすぐに魔物のエサにされてしまいますよ」
アイシスがそう忠告してくれる。
そうか、これが魔界の魔物なのか……。
正直、今のおれじゃ不意打ちをくらっていなかったとしても一人で倒せるかわからない。
そんなバケモノたちがこの世界にはうようよといるんだな……。
おれは改めて魔界に来てしまったんだなと実感する。
そんな黙り込んでしまったおれを見て、ハルが笑いかけてくる。
「まぁ、こんだけの魔力に包まれてるんだ! 色々と試してみたかったんだよな」
んっ……?
いったい、それはどういう意味なんだ?
ハルの言葉の意味が理解できずにいると、カシアスがおれに教えてくれた。
「魔物は魔力をもつ生命体を捕食しようとしますからね。魔界では基本、魔力は抑えておくのが常識ですよ」
なるほどな。
魔物の生態として、魔力をもった生き物を襲うというのがあるのか!
どうやら魔物は魔力感知能力が高いようだな。
つまり、魔界に来て大気中にあふれる魔力量に興奮して、おれが体内に魔力を取り込みまくったせいで先ほどは狙われたということか!
言われてみれば、カシアスやリノたちからは魔力を感じないな。
あれっ、それにサラも……。
おれは同じ境遇にいるはずのサラをちらりとみる。
すると彼女はあきれたような口調で話す。
「魔物が魔力をもった生命体を狙うなんて人間界でも常識でしょ?」
そうだったの?
まったく知らなかったぜ……。
「それにアベルはアイシスと2年間もの間、魔物を狩ってたんじゃなかったの……?」
あれ……言われてみれば。
でも、アイシスからそんなことは一度も聞いたことはないだけど?
すると、アイシスが頭を下げて謝罪をしてくる。
「申し訳ありません。アベル様は既にご存知のことだと思っておりました。それに、自らを鍛えるために魔力を誇示して魔物たちを引きつけていたのだと……」
でたよ……。
アイシスのおれを過大評価をして重要なことを黙っているやつ……。
最近は減ってきたが、一緒に過ごしはじめた頃はひどかったからな。
それでおれに教えてくれなかったというわけか……。
まぁ、つまり魔界は魔力があふれているけど抑えておいた方がいいんだな。
それだけは覚えておこう。
こうして、おれはさっそく体外に発する魔力の量を調節する。
「それでハルの母さんが治めているっていう魔王国はここからどれくらいのとこにあるんだ?」
おれは気を取り直してハルに尋ねる。
魔物の一件で忘れていたが、おれたちの目的はハルを送り届けることだからな。
どこに向かって進めばいいのか一応聞いておかなくてはだ。
すると、彼女は不思議そうな顔をして返答するのであった。
「何をいっている? すぐそこにあるではないか!」
えっ……?
すぐそこだって……?
おれはハルの言葉を受け、目を凝らして辺りをよく見渡してみる。
すると、一面橙色に染まる大地ではあるが何やら一部違和感を感じた。
「もしかして……」
おれは違和感に向かって走り出した。
そして、実際に近づいてみるとその違和感は確信に変わる。
なんと、転移したおれたちの側には大地の裂け目が広がっていたのだ!
「やっと気づいたか! アタシの国はこの渓谷の底にあるんだよ」
そんなバカな!
この渓谷の底だって!?
「だけど、どうやって入国するんだ? まさか、飛び降りたりはしないよな……?」
おれは恐るおそるハルに尋ねてみる。
ハルはこの渓谷の底に国家があると言っているが、ここからでは底なんてまったく見えない。
つまり、それだけ深いってことだろ?
飛び降りるなんてことだけはやめてくれとおれは願っていた。
「これはかつて敵国の侵入を防ぐ意味もあったらしいからな。そう簡単には入国できないようになってるんだぞ」
「でも、安心しろ! 今回はアタシが転移魔法で内部まで案内してやるから」
ハルは自慢げにそう微笑むと、転移魔法の準備をするとかで魔法陣を描く。
どうやら、外部から全員で一気に魔王国の内部へと向かうようだ。
魔法陣を使わない転移魔法でもそれはできるが人数制限があるからな。
おそらく、ハルは入国の手続きに関するめんどう事を何往復もしたくないのだろう。
おれはそう思った。
「ささっ! カシアス様たちもどうぞ」
彼女はそういって完全した魔法陣におれたちを案内する。
転移陣に乗るのは先日のハワードのときの一件以来だな。
まさか、こんなに早くまた乗る機会が訪れるとは……。
「それでは、魔王城まで一気に行きますよ!」
えっ……魔王城?
入国審査とか受けて、それから魔王城に向かうんじゃないの……?
いきなり魔王のいるお城までってマジかよ!
こうして、おれたちはハルの転移魔法によって魔王が暮らす魔王城へと転移するのであった。
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