234話 王女ハルとのお茶会(2)
「そうだった! お前、悪魔の指示で人間界にやってきたって言ってたな!! 説明しろよ」
おれは席を立ち上がり、ハルに問いつめる。
その瞬間、ハルの表情が一瞬で変わり、空気が張り詰めるのであった……。
そして、彼女はゆっくりと語り出す。
「そうだ……。思い出すのも腹立たしい、あの悪魔のせいでアタシは魔王国から出てきたんだよ。まぁ、アタシがここにいるのはあの悪魔の指示じゃなくて、自分の意思でだけどな」
意外にもあっさりと話すハル。
それにあまりにも感情が高ぶったのか、話し方が元の荒々しい口調に戻っている。
カシアスの前ということで、先ほどまでは一応丁寧な話し方を心がけていたようだが、そんなことすら忘れてしまうほどその悪魔とやらに思うところがあるようだ。
「それでその悪魔っていうのはだれなんだ?」
「どうして人間であるお前がそれを知りたがる?」
「いいから答えてくれ!!」
おれは鬼気迫る表情でハルに訴えかける。
これはチャンスかもしれないんだ。
どうやらハルはカシアスの知り合いらしいし、カシアスもハルを警戒しているわけではなさそうだ。
つまり、
それに、今の話ぶりからハルは悪魔と敵対している可能性すらある。
これは敵の情報を引き出すチャンスなんだ。
すると、ハルはおれの熱意に押し負けたのか諦めたような様子で口を開いた。
「まぁ、いっか。別に隠しているわけではあるまいし……」
おれは固唾を飲んでハルの言葉に耳を傾ける。
そして、彼女はおれが予想すらしていないのとを語るのであった。
「悪魔っていうのはな……アタシの母親だ」
おれの中で数秒思考が止まる。
「はい……?」
彼女の言葉におれは思わず言葉を漏らす。
いったい、どういうことなんだ?
母親が悪魔だと……?
「いや、お前はダークエルフなんだろ? じゃあ、母親もダークエルフのはずじゃないのか??」
「お前こそ何を言っているんだ? 当たり前だろ! アタシの母親はダークエルフだ」
おもしろいほどに話が噛み合わない。
おれは何か聞き間違いをしてしまったのではないかと再び先ほどの会話を思い出してみる。
しかし、どこにも問題はなかったはずだ。
だとしたら、どうしてこんなことになっているんだ……?
おれが困惑していると、カシアスが助け舟を出してくれた。
「アベル様、魔界では個性や性格などを
種族を使って個性や性格を例える……?
「ちなみに、『悪魔のようだ』という例えは、自分勝手な性格で相手のことを尊重しない者や、交わした約束を理不尽な理由で破ったりする者に対して使うのです」
「かつて、わがままを通して契約を破棄した悪魔がいたことからそのように例えられるようになったようです」
つまり、本当に母親が悪魔であるわけではなくて、もののたとえとして悪魔であるといったのか?
それは前世でいうところの、人懐っこいやつをイヌのようだといったり、ズル賢いやつをキツネのようだというようなものか?
「そういえば、お前はこの世界の劣等種だったものな。悪かったな、勘違いさせちまって」
悪びれもなく愉快そうに笑うハル。
つまり、彼女はおれたちが追っている悪魔たちとは無関係だってことか……。
ハルが敵ではないと安心する気持ちはあるが、それ以上に悪魔たちに関する情報が何も得られなかったという徒労感でいっぱいだ。
おれはため息をついて椅子にうなだれる。
「ちなみに、家に引きこもって外に出ない者なんかは『ダークエルフのようだ』なんて例えられるな」
「ダークエルフの中には洞窟以外で暮らす者たちもいるし、アタシからしたらいい例えとは思えないんだがね……」
なるほどな。
つまり、前世で病気がちで引きこもっておれはダークエルフみたいだってことか。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
何の手がかりも得られなかったということで振り出しに戻ってしまったが犠牲者はいなかったのだ。
それだけでも十分だろう。
一気にハルへの興味を失くしたおれとは別に、カシアスは気になることがあるらしく、その後も彼女と色々と話しているようだった。
「つまり、ハルお嬢様はまたジュリー様と喧嘩をして魔王国を飛び出してきたのですね」
それに魔王であるカシアスとの会話ということもあり、彼女は再び丁寧な話し方に戻していた。
いつもその口調で話せばいいのに、見た目は気品あふれているのだからと思いながらおれは二人の会話を聞いていた。
「その通りです。結婚だのお見合いだのっていってアタシに干渉してくることにイライラとしてしまいまして、また家出をしてしまいました。お恥ずかしい話です……」
「それとカシアス様、ハルで構いません!
おれはハルの発言に驚き、思わず口を挟んでしまう。
「ちょっと待て! ハルって魔王の娘なのか!?」
カシアスとの会話に割り込んできたおれを嫌そうな顔をして見つめるハル。
「アタシはね、あなたに呼び捨てを許したわけじゃないんだけど……まぁ、いっか。カシアス様の知り合いということで今回は特別に許してやるけど……」
どうやらおれにハルと呼ばれたことが嫌だったらしい。
別にそれくらい構わんだろうと思うんだけどな。
そして、ハルはおれたちに改めて自己紹介をするのであった。
「そう! アタシは魔王序列第58位ジュリー=ウォーカーの長女にして、次期魔王候補の一人だ。下界の劣等種である貴方とは天と地の差があるの!」
彼女はそう言っておれを見下すよう自己紹介をする。
「それは知らずに悪かったな……。通りであんなに強いわけだ」
魔王になれるってことは『魔王』スキルを持っている上に、膨大な魔力も持っているのだろう。
とてもじゃないが今のおれが敵う相手ではないな。
「そう! アタシのスペックを考えても魔王になれる素質が十分にある。だからこそ、アタシに釣り合う男がいなくて困ってるんだ」
「自分より弱い男と付き合うなんて無理! 子どもを作るなんてもっと無理!! 女より弱い男なんて存在価値ないじゃない! それなのにあのクソババァといったらモヤシみたいな男ばかりを……」
あぁ、なるほどな。
なんとなく話がわかってきたぞ。
たぶん、ハルの母親は娘の結婚相手を色々と見繕ってくれていたわけだが、そいつらでは次期魔王候補である彼女よりも弱いやつらだったってわけか。
てか、冷静に考えて魔王になるようなやつより強い一般人なんているのか……?
魔王が治める国の中で一番強いのが魔王なんじゃないのか?
そんなことを思っていると、ハルが何かを思いついたように声を上げる。
「そうだ! お前、魔王の婿になりたいと思わないか!?
「えっ……?」
突然の言葉におれは戸惑ってしまう。
「お前には魔法の素質がある。ダークエルフのアタシにはそれがわかるんだ! 鍛えればアタシより強くなれるほどにお前には素質がある!」
「それに、カシアス様が気にかけているということはきっと普通じゃない何かがあるはずだ! おっ、よく見れば顔も悪くないな」
ハルは急に顔を近づけてきてジロジロとおれを見つめる。
「よし! アタシが魔界でお前を鍛えてやろう!! そして、お前がアタシに勝ったあかつきには結婚しようじゃないか!!」
彼女はすごい勢いで話を進めていく。
えっ……?
何が起きてるの?
おれはポカンと口を開けて楽しそうに笑うハルを眺めていた。
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