194話 エストローデ vs アベル(1)

  ついにはじまってしまったエストローデとの本格的な戦闘。

  その圧倒的なまでの魔力から撃ち出される魔法に、おれは反応することすらできなかった。


  同じ魔王クラスの風属性魔法っていっても、カインズの時とは比較にならないほどのスピードと破壊力。


  これが十傑の悪魔の実力なのか……。

  とてもじゃないが、今のおれではどうにかなるとは思えないぞ。


  おれは目の前に立ち塞がる少年の悪魔を見つめて、顔をしかめる。

  すると、エストローデはとんでもないことを口にした。


  「ほぅ……今の攻撃を見切るとはなかなかやるな。次はお前を狙ってやろう、防ぐのか、躱すのか、楽しみだなぁ……」


  エストローデが楽しそうに微笑んでいる。



  おいおい、ちょっと待て!

  もしかして、こいつはおれが今の魔法を見切って立ち尽くしていたと思ってるのか!?

  今さっきのは見切ったわけじゃなくて、動けなかっただけなんだけど……。



  まぁ、そんなこと言ってても仕方ない。

  今は自分の身を守ることだけを考えないとな。


  おれはエストローデの言葉に恐怖して防御魔法をいつでも発動できるように整える。

  そして、エストローデが魔法でいつ攻撃してきてもいいように防御魔法を発動した。



  「闇の壁ダークウォール!!」



  おれはありったけの魔力を込めて防御魔法を目の前に展開する。

  今までにも増して、深い闇の壁がおれを守ってくれる。


  この闇に包まれている感じにおれはどこか懐かしさを覚える。

  まるで抜けることのできない闇の沼に沈み込んだかのような気分だ。


  しかし、そんな気持ちに浸れたのも一瞬だけ。

  防御魔法を展開した次の瞬間、強い衝撃波がおれを襲った。



  ドォォォォーーーーン!!!!



  おれの防御魔法とエストローデの攻撃魔法が激しくぶつかり合う。

  その時に発生した衝撃波によって、おれは数メートルほど後ろに飛ばされていた。

 


  おれが展開した防御魔法はエストローデが放った真空波によって破壊されたのだ。

  だが、闇の壁ダークウォールがかなりの魔力エネルギーを吸収してくれたのか、おれへの被害はほとんどなかった。



  生き残った……?

  あいつの攻撃を受けたのに……?



  嘘だろ……。

  おれが防いだのか……!?



  おれは夢を見ているのではないかという不思議な気分になる。

  そして、驚きと共に喜びの感情が湧いてきた。


  防御魔法は跡形もなく破壊されてしまった。

  だけど、それを踏まえても実質的におれは数メートル吹き飛ばされただけ。


  これはおれがエストローデの攻撃を防ぎ切ったといってもいいのではなかろうか!


  もしかして、おれって十傑の悪魔と戦えるほど強くなってるんじゃないか?


  この様子の見ていたエストローデが声をかける。



  「ほぅ……。なかなかやるじゃないか」



  ほら!

  敵であるエストローデだっておれを褒めてくれる。


  成長というのは自分では気づかないものなのだ。

  アイシスやサラとの日々の訓練でいつのまにかおれは悪魔たちとも戦えるまでに成長していたのかもしれない!


  苦しい日々だったが、おれは着実に強くなっている。

  これなら、大切な人たちを守れるはずだ!!


  だが、おれが持つこの自信はすぐに打ち砕かれることとなる。

  エストローデが放った言葉によって……。



  「おれの攻撃を完璧に見切った上でのあの防御魔法を発動するタイミング。そして、それを防ぐための最小限の魔力消費を計算しての魔法発動。やるではないか!」



  エストローデが何か話しているが、その内容をおれは理解できない。

  こいつは何を言ってるんだ……?



  だが、次の言葉で嫌でも理解することになる。



  「よし! 次は今の2倍……いや、10倍ほどの速度と威力の魔法を使ってやろう! アベル、お前ならこれも防げるはずだろ」



  へっ……?

  今の10倍の速度と威力だって?


  こいつは冗談を言ってるのかよ……。



  いや、だがエストローデは冗談を言うタイプには見えない。

  それとも、本気でおれの実力を勘違いしているのだろうか……。



  そこでおれは先ほどのエストローデの発言の意味を理解した。

  そして、はなはだしいまでの勘違いにおれは怒りすら湧いてくる。


  おれがエストローデの攻撃を完璧に見切って上で防御魔法を発動しただと?


  次はおれに当てるってお前が宣言したから、おれは目の前に防御魔法を展開しただけだぞ。

  おれは完璧なタイミングで防御魔法を発動した覚えなんてない!


  それに、攻撃を防ぐための最小限の魔力消費を計算して防御魔法を発動したとか言ってたな。


  おれは死ぬのが怖くてありったけの魔力を使って防御魔法を展開しただけだぞ。

  それがたまたまギリギリお前の攻撃魔法を防げるだけの魔力量に到達しただけだ!

  計算してあの防御魔法を発動した訳ではない!



  ダメだ……。

  やっぱり、こんなデタラメなやつに勝てるわけがない。

  おれが十傑の悪魔と戦うなんて千年早かったんだ……。



  だけど、ここで逃げ出すことなんてできない。

  カシアスは女の悪魔を相手に手が離せないみたいだし、サラは転移魔法が使えない。


  ここでおれが逃げ出せば二人はどうなるんだ?

  絶対にいい方向に向かうはずなんてない。


  そこでおれは発想を転換する。


  よし、正面から戦えないのなら奇襲を仕掛けよう!



  あんなバケモノ相手に真っ正面から戦いを挑むのなんてバカげている。

  おれは転移魔法を使えるんだし、上空に転移して奇襲を仕掛けるのだ!!



  そういった思考になったおれはすぐさま行動に移す。

  そして、転移魔法を発動して上空50メートルの空中へと転移した。



  よし、ここからエストローデを狙って……。



  おれはエストローデを捕捉して攻撃魔法を撃ってやろうとする。

  しかし、エストローデの姿が見当たらなかった。



  次の瞬間、先ほどまでおれがいた地上に竜巻たつまきのような風の渦がいくつも通過する。


  それはまるで暴れ狂うオロチのように大地を砕き、宙へと舞い上げていた。

  そして、竜巻たちはその威力を衰えずに後方にそびえる森林を破壊していく。


  上空から見ているとその様子がよくわかる。

  数秒後には、緑が生い茂っていた森林はグチャグチャになっており、大蛇が這ったような跡がいくつもできていた。



  やべぇ……。

  おれ、転移しなかったら間違いなく巻き込まれてたよな。



  おれは地上で起きている出来事をみて、上空でひと安心する。


  だが、安心できていたのもわずかなひと時だけ。

  おれは聞きたくない嫌な声によって現実に引き戻される。



  「すごい! すごいぞアベル!! 今のを躱すなんて、お前は想像以上の逸材だ!!」



  愉快そうに笑うエストローデ。


  やつもまた、おれを追いかけで上空へと転移してきたのであった。

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