180話 ティアの送別会(2)
ティアさんの送別会。
エトワール・ハウスの大広間で行われているこの会は今日の夕方からはじまり、周辺に暮らす領民たちを含め多くの人が参加してくれていた。
おれたちも飾り付けを手伝った装飾の会場の中で立食パーティーのような形で送別会は進行される。
エトワールさんからの
主役であるティアさんは会場内にいる子どもたちや領民のみなさんと楽しそうに話している。
そんな彼女の姿を見ながら、おれやサラは食べ物を頂いていた。
アイシスが作っていたというだけあって味はおいしい。
そんな風におれたちが隅っこで食事をしていると、領民と思われるおばさんたちが話しかけてきた。
「あら、あなたたち初めて見る顔ね。いつからハウスで生活をしているの?」
どうやら、このおばさんたちはおれたちをハウスにやってきた新入りだと思ったようだ。
まぁ、この孤児院にはメルのような5.6歳みたいな小さな子からティアさんのような20歳手前のような方もいるのだ。
見た目が中高生くらいのおれたちを見てハウスの新入りだと思うのは仕方ないことか。
「あの……おれたちはエトワールの知り合いでして、ここの子どもじゃないんですよね。あははは……」
おれの答えを聞いて顔を見合わせるおばさんたち。
そして、勘違いだったことに気づいて謝罪してきた。
「あら、ごめんなさい!」
「私たちったら、よく知りもせずに悪かったわね」
二人のおばさんはおれたちに謝ってくる。
片方はふくよかなおばさま。
もう片方は綺麗に歳をとったような女優さんのような方だった。
「大丈夫ですよ。それより、お二人はこの近くにお住みなのですか?」
サラがおばさんたちに話しかける。
初対面ながらスムーズに会話をはじめる。
流石のコミュ力だ!
「えぇ、わたしは専業主婦でこちらの彼女は宿屋を営んでいるのよ。彼女の宿屋、昔はエトワール様がよく利用していたらしいのよ!」
ふくよかな体型で髪の毛にカールをかけているおばさんがそう紹介をする。
やはりこのおばさんたちは関係者ではなく近辺に住む来客のようだ。
「まぁ、わたしもその時は亡くなった主人に嫁ぐ前だったし、エトワール様を見たことはなかったんだけどね。それで、あなたたちはエトワール様とどういった関係なの?」
そして、宿屋を営んでいるらしい細身のおばさまがおれたちに尋ねてくる。
どういった関係か?
なんとも言いづらいな。
すると、おれの代わりにサラが答えてくれた。
「エトワールさんは私の父の古い友人です。それでカルア王国から旅行のついでに会いにきました」
うん、完璧な答えだ。
しっかりとおばさんたちの目を見ているし、おれが面接官なら一発採用してしまうほどの回答だったね。
「まぁ、王国からきてるの! それに、お父様がエトワールとご友人だったなんて……」
王国から来ていると聞き、ふくよかなおばさんが驚く。
そして、もう片方の宿屋を営んでいると話していたおばさんは何やら思うところがあったようだ。
サラに質問を続ける。
「失礼だけど、もしかしてあなたのお父様のお名前って『カイル』だったりする……?」
恐るおそる尋ねる彼女に、サラは驚きつつ答える。
「はい……。私の父はカイル=ローレンですけど……?」
どうしてその名前が出てきたのだろうか?
そんな風に感じたであろうサラがおばさんたちの圧に少し押されながら答えた。
すると、おばさんたちの目の色が変わる。
「ほんとに!? やっぱり、そうじゃないかと思ってたのよ〜! よく見れば、カイル様のおもかげがあって聡明な顔立ちをしているもの!」
「確か、セアラちゃんだったわよね? こんなところで会えるなんておばさん感激よ〜」
なんか二人が勝手に盛り上がっているな。
エトワールさんの話でもあったが、カイル父さんは地元の領民たちからすごい慕われていたんだな。
やっぱ、カイル父さんはすごい人だよ!
おれは改めてカイル父さんの偉大さを実感する。
「あの……どうして私の名前を……??」
突然迫ってくるおばさんたちに困惑するサラ。
そういえば、なんでこの二人はサラを特定できたんだ?
「あら、だってあなた有名人よ! カイル様の一人娘でカルア王国に留学。カルア高等魔術学校のAクラスに入学して武闘会は優勝したそうじゃない!」
「それに王国の王子様を押しのけて3番手を勝ち取ったんでしょ? しかも、去年優勝したすごい子たちを倒したって!」
まるで、ずっと推してきたアイドルに初めて出会えたかのようにキャピキャピとはしゃぐ二人。
どうやら彼女はサラに残るカイル父さんの面影だけでなく、王国からおれたちが旅行に来ているという情報から特定したようだ。
それにサラの名前は武闘会の影響で大陸すら越えて知れ渡ったのだし、知られているのは当然といえば当然か。
だが、武闘会というのはこんな隣国の一庶民にまで知れ渡るような行事だったのか?
おれたちが子どもの頃はカルア王国の武闘会なんて一度も聞いたことがなかったぞ。
まぁ、でもサラはこの領地の出身だからな。
地元から優勝者がでたから領民たちにも知れ渡っとも考えられるな。
なんたって、武闘会の影響でサラはローレン家の実家から手紙で招待状が送られてくるレベルなんだ。
そりゃ、領民たちだって知ってるか。
「まだ高等部一年生なんでしょ? これからが楽しみね!!」
「よかったら今度うちの宿屋に泊まりにきて! 親戚も集めて歓迎するわよ!」
「はっ……はい。ありがとうございます……」
なんだかサラも少し困っているな。
まぁ、年配のおばさんたちにこんだけ勢いよく迫られたらこうなってしまうか。
おれには何もできん。
大人しく見守っておこう……。
そして、おれはサラとおばさんたちの会話を静かに聞いていた。
「それで? いつになったらカイル様は帰ってくるの? ベイル様も亡くなってしまって、次はカイル様が領主になると思っていたのに……」
「もしかして、エトワール様にお会いに今日ここに来ていたりするの!? えぇ、どうしよう。私ったらもっと真剣にお洋服を選んでくればよかった〜!!」
盛り上がりおばさんたち。
それに対してサラの表情は暗くなる。
それもそのはずだ。
カイル父さんが亡くなったことを二人は知らないのか……?
そして、盛り上がる二人にサラは残酷な真実を告げる。
「私の父であるカイルはもう亡くなっています。それに、母もです。今の私には血の繋がった家族は一人もいないんです。ですから、父はもうここには帰ってこれません……」
サラの言葉を聞いて話すのをやめたおばさんたち。
冗談を言っているのではないかと思ったかもしれないが、サラの
「そんな……カイル様が亡くなった? ヴァレンシア様はそんなこと、ひと言も話しておられなかったわよ……」
「でも、実の娘のセアラちゃんが言っているのならね……」
ヴァレンシアというのはカイル父さんの母親、つまりサラにとって祖母に当たる存在だ。
そして、理由はわからないがその祖母がカイル父さんの死を隠しているのだろう。
「すみません。少し、夜風に当たりたいので私はこれで失礼します」
サラが二人に頭を下げてこの場を立ち去る。
残されたおばさんたちはカイル父さんの死について話していた。
「どうする? 他のみんなにも伝えておいた方がいいかしら……?」
「でも、ヴァレンシア様は隠そうとしているってことよね? 私たちがそれを広めたなんて知られたら……」
「そうね、今日のことは聞かなかったことにしておきましょうか……」
どうやら、二人はサラのカイル父さんについての話を聞かなかったことにするようだ。
事情はわからないが、それが懸命な判断だろう。
そういえば、アイシスもカシアスも見当たらないな……。
そうだ!
サラを一人にするわけにはいかない!!
この間、サラは誘拐されたばかりなのだ。
彼女を絶対に一人にしてはいけない。
おれは外へ向かったサラを一人追いかけるのであった。
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