179話 ティアの送別会(1)

  エトワール・ハウスで昼食をご馳走になったおれたち。

  さらに、エトワールさんは明日予定のティアさんの送別会に参加しないかと誘ってくれた。


  これを聞いていたメルやティアさんが『是非、来て欲しい!』と言ってくれたので、お言葉に甘えておれたちも参加させてもらうことにした。


  このままではもらうばかりだ。

  それも悪いので、おれたちは送別会の準備の手伝いをさせてもらうのだった。




  ◇◇◇




  トンッ! トンッ! トンッ!



  サクッ! サクッ!



  手際良く食材を切っていくアイシス。

  その姿に惹かれたのか、子どもたちが吸い込まれるかのように彼女を凝視する。


  「これで下ごしらえは終わりですね」


  アイシスが調理器具を置いてつぶやく。


  すると、子どもたちが一斉に声をあげる。


  「すっげー! プロみたい!!」


  「きれいなお姉さん、お料理もできるんだね!」


  「うつくしい……」


  みんなうちのアイシスに感心している。


  これにはおれとしても鼻が高い。


  なんたってアイシスはカルア魔術学校に複数存在する学食の中で『食堂カルパネラ』を人気ナンバーワン食堂に押し上げた立役者ですからね!


  まぁ、半分以上は料理ではなくアイシスのルックスに惹かれて通い詰めているんだろうけど……。



  アイシスの活躍を調理場で眺めていたおれとサラ。


  すると、一人の少年がおれたちの方に寄ってきた。


  「それで、お兄ちゃんたちは何ができるの??」


  純粋無垢むくな表情でおれたちを見つめる少年。

  アイシスのスゴ技を見せられたこともあり、おれやサラにも何かを期待しているのだろう。


  すると、眼鏡をかけた少女が質問してきた少年に注意する。


  「バカね、何もできないからここでサボっているのよ。お客さまに失礼なこと聞いちゃダメでしょ!」


  おいおい、君の方が失礼じゃないのかい?


  おれは心の中でツッコミを入れる。


  まぁ、サボっていたこと自体は否定しないんだけどね。


  おれは反省しがなら心の中でつぶやいた。

  すると、メルもやってきて二人の子どもたちにビシッと言ってくれた。


  「お兄ちゃんたちは何もできなくはないよ! すっごいことができるんだよ! わたしのプレゼントづくりを手伝ってくれたんだもん!!」


  そうだそうだ。

  言ってやってくれよメル。


  ど田舎育ちのおれやサラは花で器用にいろいろと作れるんだぞ!


  すると、失礼なことを言い放った少女がメルに尋ねる。


  「へぇー……。じゃあ、二人にはサボってないで何か手伝ってもらいましょう」


  「うん! でこれーしょんなら二人にもできるよね?」


  二人にもできるよねって……。


  きっとメルはおれたちは大した特技が何もないと思っているのだろう。

  メルなりにおれたちのプライドを守ろうとしてくれているのかな?


  優しさが染みるぜ。


  でもな、お兄ちゃんたち。

  実はすごい魔法使いなんだぞ。

  いつかメルにも見せてやるからな。


  そんなことをおれは思うのであった。

 

  「そうね。それじゃ、みんなで会場のデコレーションをやりましょうか」


  サラがメルたちにそう伝える。


  こうして、おれたちも会場の装飾を手伝ったのであった。

  アイシスほどではないが、ティアさんの送別会準備の役に立ったと思う。


  おれはともかく、サラに飾り付けのセンスがなかったのはここだけの秘密だ。


  ちびっ子たちに必死にフォローされてたサラ。

  そうとう落ち込んでたな……。




  ◇◇◇




  そして、翌日。

  ティアの送別会にはエトワール・ハウスのみんなだけでなく、周辺に住む領民のみなさんも来てくれた。


  どうやらエトワール・ハウスは周辺領民たちとの関係も大切にしているらしく、ローレン領内に就職する人もいるらしい。


  ちなみに、ティアさんはカルア王国の北部で就職するらしい。

  そして、出発は明日の昼過ぎだそうだ。


  「ティア、卒業おめでとう。随分と大きくなって……」


  エトワールさんが涙目でティアに話しかける。


  エトワールさんからしたら彼女は自分の娘同然の存在なのかもしれない。

  小さい頃からずっと育ててきた娘とお別れしなければいけないのは悲しいことだろう。


  「エトワール様。10年以上、本当にお世話になりました! わたし、魔法の才能はなかっけど、別の道で人の役に立てるようになれて、とってもうれしいです!」


  「それで……。わたし、いつかスタッフとしてここに戻ってきたいです!」


  「うんうん。いつかなんて言わないでいいんですよ。貴女が帰ってきたくなったらいつでも帰ってきなさい」


  ティアさんも涙を流して別れの言葉をかけている。

  それに対して彼女を新しい道へと優しく送り出してあげるエトワールさん。


  彼女からしてもエトワールさんは親同然の存在。

  いつかまた会えるとしても別れはつらいものだろう。


  そして、ハウスに残る子どもたちからティアさんにプレゼントが渡される。


  クッキーやハンカチをはじめ、みんな手づくりでティアさんへの感謝の気持ちを込める。

  ティアさんはみんなからのプレゼントを喜んでもらっていた。


  そして、メルの番になった。


  「はい! わたしからのプレゼントだよ!!」


  そう言って、メルは花束や手づくりのリース、頑張って書いた手紙を渡す。


  ティアさんもまだ小さなメルからこんな大そうなモノをもらうとは思っていなかったようだ。


  「えっ!? これ、メルちゃんが作ったの?」


  「うん! アベルお兄ちゃんとサラお姉ちゃんに手伝ってもらったの!」


  メルは花畑で花束やリースを作っただけでなく、夜サラの部屋を訪れて字を教えてもらっていた。

  そして、ティアさんへの感謝の気持ちを文字として綴ったのだった。


  「そう……。ありがとう」


  ティアさんは涙を流してメルを抱きしめる。

  そんなティアさんにメルはリースを頭にかけてあげる。


  「今までありがとう、ティアお姉ちゃん! 大っきくなったら一緒に働こうね!」


  メルは将来ティアさんと一緒に働こうと伝えた。


  「うん……。待ってくるからね、メルちゃんがわたしを迎えに来てくれるの……」

 


  こうして、メルのプレゼント大作戦はティアさんに喜んでもらい、大成功を収めたのだった。

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