140話 サラ誘拐事件(3)

  「あら、こんなところでみんなしてどうしたの?」


  そうおれたちに声をかけてきたのはサラのクラスメイトであるハーフエルフのアリエルだった。


  こんな忙しい時にまたやっかいな……。


  焦っていたおれはアリエルの登場をあまりよく思っていなかった。

  また先ほどの様に、あれこれと聞かれて答えるのは無意味な時間を過ごすだけだからだ。


  だが、ネルはアリエルに対して冷静に質問をする。

  この事件に関する重要な出来事を……。


  「ねぇ、アリエル! 授業が終わった後、セアラちゃんが何してたか知らない!?」


  突然アリエルに掴みかかって尋ねるネル。

  その急な展開にアリエルも驚いてしまっている。


  ここでおれは気づく。


  そうだ!

  アリエルなら消えたサラの行方ゆくえについて何か知っているかもしれない!


  「何よ急に。何であなたにそんなこと教えないといけないわけ?」


  アリエルは面倒くさそうにそう答える。

  二人の関係からしたらこれはいつものコミュニケーションなのかもしれない。

  だが、ネルは今そんなことを求めているわけではないのだ。



  「いいから! 知ってるなら教えなさい!!」



  鬼の形相で迫るネルにアリエルは驚いている。

  いつもと違うネルの雰囲気に何か感じたようだった。

  そして、おれからもアリエルに頼み込む。


  「お願いだ、アリエル! 何か知ってるなら教えてくれ!」


  いまだに状況が理解できていないアリエル。

  だが、真剣な表情でサラのことを聞き出すおれたちに、アリエルは戸惑いながらも話してくれた。


  「えっと……。セアラなら授業の後、先生に呼ばれてどこかへ行ったみたいよ?」


  アリエルの口から出た予想外の言葉。


  「先生に呼ばれた??」


  おれは思わず聞き返してしまった。

  どうして先生に呼ばれただけでサラは消えたんだ?


  「うん……。副担任のフローグに呼ばれてるのを見たの」


  フローグだと?

  確かおれの入試の面接で意味のわからない謎理論でおれを落とそうとしていた教師だ。


  入学後にサラのクラスの副担任であることを知った。

  そういえばサラも苦手なタイプだと話していたな。


  だが、どうしてフローグに呼ばれたサラは消えたんだ?


  「アイシス、どう思う?」


  おれはアイシスに尋ねる。

  彼女なら何か答えてくれると期待して。


  アイシスは手を口元に当てて深く考え、そしておれに語る。


  「可能性としてはセアラ様は教師とともに拐われたということ」


  そうか。

  十傑クラスの悪魔となれば、この学校の教師など、いてもいなくても変わらないほどにちっぽけな存在。

  目撃者もろとも連れ去ってしまったということか。


  そして、アイシスは言葉を続ける。


  「もしくはその教師が十傑の悪魔と通じており、セアラ様を拐ったということ……」


  おれはこの言葉を聞き、憤りが募る。


  もし、カエルおじがそんなことをしたのならおれは絶対にあいつを許さない……。


  「あの教師は確か国王を慕う貴族たちと繋がっていたそうですね」


  アイシスが独自に調べたのか、カエルおじが貴族たちと繋がっていたことを語る。


  「なるほどな。あの子はローレン家の血筋だ。テオ様を信仰する国王派閥の貴族たちからしたら、武闘会での彼女の活躍はおもしろくなかっただろうな」


  こう話すのはケビンだ。


  サラが七英雄テオの血筋じゃないからという理由だけで誘拐したのか?

  だが、確か前にハリスさんも話していた気がする。


  王家を含めた国王派閥の貴族たちは、テオを大々的に持ち上げることによって、テオの血を引く自分たちが王国を繁栄させていく責任があるのだと豪語しているとかなんとか。


  もしかしたら、王子であるアルゲーノよりサラの方が武闘会で目立ったからという理由でサラはこんなことになっているのか?

  いや、前世の常識で物事を判断してはいけない。

  とにかく、このような可能性も考慮に入れなければならない。


  「えっ? 何が起きてるの? セアラが拐われたの!?」


  おれたちの会話を聞いて動揺するアリエル。

  情報を提供してくれた彼女には悪いが、今は説明している時間はない。


  「今は全部説明している時間はない! この後しっかり話すから今は落ち着いて黙ってて!」


  そんな慌てるアリエルにネルが冷静に対処する。


  「わっ、わかったわ……。でも、ちゃんと私にも説明しなさいよね!」


  アリエルはネルの真剣な表情に危機を感じたのたか大人しく言うことを聞いてくれる。

  おれとしてもありがたい。


  「ゼノシア大陸でも巨大組織である冒険者ギルドに十傑の悪魔による手は伸びていました……。この魔術学校も、やつらによって陰で支配されているという可能性は考えられます」


  確かに一つの大陸の冒険者ギルドは実質、十傑の悪魔に支配されていたんだ。

  ギルドの多くの上層部たちが一斉に姿を消したことからもそれはうかがえる。

  それを考えれば世界最高峰と名高いカルア高等魔術学校という組織に十傑の悪魔が関わっていてもおかしくない……。


  やつらの目的はなんだ?

  人間界を裏で支配したりするのが目的なのか?


  いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

  重要な手がかりが見つかったのだ。

  一刻も早く行動に移さなきゃだ!


  「魔界の方はカシアス様にお任せをして、我々は国王派閥の貴族たちの私有地を調べるというのはどうでしょう?」


  アイシスがこう提案してくれる。


  確かに十傑の悪魔が絡んでいる可能性はある。

  既にサラは魔界に連れ去れてしまっていることも考えられる。


  だが、国王派閥の貴族が絡んでくるとなればサラはまだ人間界にいる可能性も出てくる。

  アイシスの言うとおり、魔界の方はカシアスに任せておれたちは人間界の方を調べる方が賢い考えだ。


  「よし! 早速さっそく、国王派閥の貴族を調べに行くぞ! アイシス、場所はわかるか?」


  自分で聞いておいてなんだが、いくらアイシスでもこんなことまで知っているいるはず……。


  「お任せください! 以前、ハリス様から情報をいただいておきました」


  よし!

  やはりアイシスは有能だ。


  それに、ハリスさんからの情報ならば安心して信用できるだろう。

  さぁ、行くぞ!


  「待って! 私も連れて行って!」


  こう声を上げたのはネルだ。

  だが、ネルを一緒に連れまわすのは……。


  「最初に行くのは王城がいい! 国王派閥の貴族ならしょっちゅう王城に出向いているの! まずは王城に行って、その場にいない貴族たちを調べる方が早い!」


  そういえば、ハリスさんも前に言ってな。

  国王派閥の貴族は王城によく顔を出していると……。


  日が暮れてきたが、この時間でもまだいるのか?


  「それに、不謹慎だけど王族が犯人の可能性もあるんでしょ! だったら王城に向かうのは悪い判断じゃないと思うの。それに、王城なら私がある程度案内できる!」


  ネルの言うことはもっともだ。

  王族……例えばハリスさんの嫌っている国王ダリオスが犯人だという可能性だってあるのだ。

  王城に向かうという意見は悪くない。


  だが、なんでネルは王城についてのことを知っているんだ?


  「確かに、国王ダリオスに関してはハリス様も警戒していました。その少女の言う通りに王城に向かうことにしましょう。しかし、その少女を連れて行くのは……」


  アイシスも王城に向かうのに賛成のようだ。

  だが、ネルを連れて行くのは気が向かないらしい。


  「お願い! 私も何かの役に立ちたいの!」


  この時、おれはネルの必死な頼みを断ることができなかった。


  「アイシス、おれからも頼むよ!」


  ネルは王城の案内ができると言うし、アリエルにサラのことを聞いたり、王城に向かうメリットを話したりと、おれ以上に冷静でいてくれることで助けになってくれるのではないかと思ったのだ。


  それに、雷属性魔法を身につけたネルは十分強い。

  最悪、逃げにてっしてくれれば何とかなるかもしれないと思ってしまった。


  「わかりました……。それでは飛びますよ」


  アイシスがおれとネルに近づく。


  「おれたちは学校に残ってフローグ先生のことやセアラのことを調べてみるよ。気をつけてな」


  ケビンがおれたちにそう話す。

  どうやらケビンは学校に残って消えたサラについて調べてくれるらしい。


  「ありがと。アリエル、セアラちゃんのことはケビンに聞いて手伝ってね」


  ネルは優しくアリエルにそう告げる。


  「わかったわ。私もセアラのために協力するよ! あと、ネル……無茶しないでね。何かに夢中になると、あなたは危なっかしいんだから……」


  アリエルも優しくネルに告げる。


  本当は二人、仲のいい友だちなんだろうな。

  おれはそう感じていた。



  「それでは、王城まで行きますよ!」



  そうして、おれたちはアイシスの転移魔法で光に包まれて消えた。



  サラ、待っててくれ。

  必ずおれが助け出してやるからな。

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