135話 武闘会終了
武闘会——それはカルア王国において600年以上続く伝統ある行事。
かつて人間界を迫りくる魔界の魔族の手から守った七英雄の一人、賢者テオが創設した高等魔術学校で行われている催しの一つである。
普段、世界最高峰の教育を受けている生徒たちがクラス単位で競い合い、その頂点を目指すのだ。
そして、今年の武闘会も一日目が終わり、2万人の観客たちも満足した様子で武闘会の会場であった第1アリーナを後にした。
明日も今日以上に熱い試合を観れると信じて——。
多くの観客たちが近場の宿屋に向かう中、ある男は校舎の空き教室へと向かっていた。
この白髪の男は学校の教師であり、鍵を使って空き教室の扉を開ける。
彼はとある人物に呼び出され、待ち合わせとしてその場所を指定されたのだ。
彼自身、その人物を信用していたこともあり、特に疑うこともなく指定された場所へとやってきた。
そして男は教室の扉を開けると先に待つ者の名を呼ぶのであった——。
「ハリス様。
そう。
この王国において、いやこの世界において最も権威のあるといってもよい精霊に、男は一人で呼び出されていたのだった。
「わざわざ悪いですね。私のわがままを聞いてもらってしまって」
ハリスが暗闇から姿を現し、呼び出した男ドーベルにそう伝える。
本来ならばドーベルは既に仕事を終え、家路についていてもおかしくはない。
それが彼女の急な頼みでわざわざ一人になるタイミングを待ってもらっていたのだ。
彼女としても申し訳なさを感じていた。
「私は構いませんよ。ハリス様の頼みとあれば
ドーベルは表面上は笑って話す。
だが、彼が内心ではどういった感情を持っているのか、それはハリスにもわからなかった。
そして、ハリスは考えながらゆっくりとドーベルに尋ねる。
「私が以前、貴方にした忠告を覚えていますか?」
これに対して、ドーベルは表情を一切変えずに答える。
「私はハリス様から色々な忠告を受けていますからね。申し訳ありませんが、どれのことをおっしゃられているのか見当がつきません」
ドーベルはこう言っているがハリスは知っていた。
この男は自分が何を言いたいのか本当はわかっているはずだと……。
そこでハリスは渋々、言いたくない言葉を口にした。
「貴方のクラスの
「そうはさせません!!」
ハリスの言葉をドーベルが
彼はその瞳を大きく開き、力強くハリスをにらむ。
普段見せない彼の一面がここにあった。
ハリスは話し合う前からこうなることはわかっていた。
生徒思いのこの男が自分の生徒を差し出すわけがない。
「すみません。いくらハリス様の頼みとはいえ、そればかりは聞けません」
ドーベルは申し訳なさそうにハリスに謝る。
結局、また自分が折れて監視をし続けるか、無理やりにでも始末するしかないのだ。
しかし、ハリスは悩む。
今日、間近であの子の力を感じ取った。
そして、恐怖した。
今日の武闘会で1年Fクラスは一躍有名になった。
そして、これからさらにあの子たちは世間に注目されてゆくだろう。
あの子がやつらの目に留まり、利用されたらと思うと……。
「お話がそれだけのようでしたら私はこれで」
ドーベルは話が平行線になることを見据え、結論が出ない話し合いを避けるためにこの場を後にした。
ハリスは悩む。
自分がしようとしていることは正しいことなのか誤ったことなのか……。
ハリスは自分が愛する一人の人間を思い浮かべる。
かつて、この王国の平和を守り続けると誓った一人の人間を——。
あの子をここで殺しておけば、将来王国を脅かす存在が一つ消える。
だが、あの子を殺せば悲しむ者も多い。
その中にはハリスにとって大切な存在も何人かいる……。
「あぁ……ニーア様。私はどうしたらよいのでしょうか……」
彼女は一人になった教室でそう
敬愛するニーア=ルードを思い浮かべて——。
この場に、姿を隠してハリスを監視しているものがいるとも知らず……。
◇◇◇
武闘会二日目、一日目に勝ち上がってきた6クラスに加え、スーパーシードである3年Aクラスと3年Bクラスを合わせた8クラスのトーナメント戦で頂点を決める。
おれのいる1年Fクラスは一日目に負けてしまい、二日目はひまを持て余して過ごしていた。
まぁ、一応ケビンとネルと一緒にサラのいる1年Aクラスを応援していたんだけどね。
どうして1年Aクラスを応援するかって?
それはサラがいるっていうこともあるけど、弱いクラスに負けたなんて嫌じゃんか!
優勝したクラスに負けたのならまだ自慢ができる。
しかも、おれたちは割と1年Aクラスを苦しめていたからね!
ケビンは正義感が強いからそんなことは気にしないと言っていたけど、おれは性格の悪いネルと一緒に1年Aクラスが他のクラスを圧倒的な力で蹴散らしていくのを期待していた。
そんなおれとネルの思いが届いたのか、1年Aクラスは3年Dクラス、そして3年Bクラスを3勝で倒して決勝まで駒を進めていた。
まぁ、アリエルにアルゲーノ、それにサラというメンバーがいながら負けるなんておれには考えられないけどね。
だが、決勝戦はそうもいかないようだ。
1年Aクラスの決勝の相手は絶対王者3年Aクラス。
ここまでの2戦はともに3勝で勝ち上がってきている。
それに去年武闘会を制覇したメンバーがそのままいるのだ。
1番手は生徒会書記の茶髪のショートカットの女。
以前、ケビンとアルゲーノの騒動の時に駆けつけたやつだ。
彼女は天才魔法使いで、既に来年から王族直属の魔導師として働くことが約束されているらしい。
将来が不安なおれからしたら羨ましい限りだ。
そして2番手は生徒会副会長の金髪長身のイケメン男だ。
彼は凄腕の魔法剣士であるが、どちらかというと魔法の方が得意らしい。
確かに以前ケビンたちの騒動の時に見た土属性魔法はすごかったからな。
ちなみに中等部時代は生徒会の会長をしていたらしい。
イケメンだけど、ムカつかないのは魅力をあげる魔法でも使っているからなのか?
そんな魔法があるのならおれも教えて欲しいぜ。
そして、3番手は神童と呼ばれた男、生徒会会長のレイ=クロネリアス。
完璧な人間として魔法、剣術ともに才能あふれる魔法剣士らしい。
おれと同様に早期入学であり、本来の年齢は高等部2年の代だ。
中等部時代は2番手である今の副会長のもとで中等部の生徒会副会長をしていたらしい。
1番手の書記の女といい感じだと噂になったこともあるようだが、実際に書記の女と付き合っているのは副会長さんの方らしい。
どうやら会長さんは女に興味がないようだ。
あれだけイケメンで肩書きもあって女の子たちにモテモテらしいのにもったいない!
だが、ケビンが言うにはどうやら会長さんは一人の女性にデレデレのメロメロだという。
まったく、何を根拠にそんなことを言っているんだか?
あの冷徹な会長さんに限ってそんなことあるものか!
そして、おれたちが観客席から見守る中、3年Aクラスと1年Aクラスの試合がはじまった。
1番手は書記の女アルマ vs アリエルだ。
同じ天才魔法使い同士の試合。
観客たちの注目も集まる。
そして、接戦の末に3年Aクラスのアルマが勝利を収めた。
個人的な感想だとアリエルの方が魔法の才能はあった気がする。
だが、やはり高等部で3年の修練を積んだ差なのだろうか。
アルマが最終的にはアリエルを押し退けて勝利を勝ち取った。
このまま今年も3年Aクラスのメンバーが優勝するのかと皆が思った時だった。
2番手の副会長のイケメンのジョシュア vs アルゲーノ。
ジョシュアの猛攻をアルゲーノが真っ向から受け止めて打ち勝った。
王国の王子の活躍に観客たちも大いに盛り上がった。
あまりおもしろくはないが、やはりあの王子の実力は本物だ。
だが、あと2年あればケビンもあの王子に勝てるようになるだろう。
いや、勝てるようにしてみせる!
そして、1勝1敗となった両クラス。
どちらのクラスも最強のエースが出てくる。
神童レイ=クロネリアス vs 神童セアラ=ローレン。
サラもおれとの試合の後に一躍有名となった。
既に神童とされていたレイと同格ということで、観客たちがサラのことも神童と騒ぎ立てたのだった。
2万人の観客たちがこの勝負の行方を固唾を呑んで見守る。
神童 vs 神童。
誰しもが壮絶な戦いになると予想していた。
そして迎えた決勝戦の最終戦。
サラは開幕から圧倒的な力を見せつけてレイ=クロネリアスに打ち勝った。
2万人の観客たちが、レイの熱狂的な信者も多い中、誰しもがその力を差を認めざるを得ないような試合だった。
そして、サラの率いる1年Aクラスは史上初となる1年生クラスでの武闘会優勝を為し得たのであった。
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