97話 ようこそ1年Fクラスへ(2)
「ようこそFクラスへ! ここはいわば学校の掃き溜め。問題児と劣等生が集められたゆかいなクラスよ! 三年間よろしくね」
ネルは笑顔でおれにそう語る。
えっ……。
問題児? 劣等生? 掃き溜め??
「六つのクラスはランダムに決められているんじゃないか?」
おれは思わず聞き返してしまう。
「そんなわけないじゃない! 優秀な生徒たちとそうでない生徒たちに分けられてるのよ。当たり前のことでしょ」
どうやら聞き間違いではなく、この学校は生徒の優劣でクラスを振り分けているらしい。
それでドーベル先生は面接のときにおれをFクラスに入れるからと言って他の先生たちを説得していたのか!?
「AクラスとBクラスはエリートコースね。魔法や魔術を扱う仕事なら就職先は選びたい放題。国王や貴族に雇われて魔導師として働くこともできるわ」
「それとCからEでも十分エリートよ。給与面はAやBの生徒より下がるけどそれでも王国で仕事探しには困らないわ」
ネルの話を聞く限りAからFにかけて順番にランクが下がっていくってことでいいのか?
だとするとサラはAクラスだけど……。
えぇぇぇぇっ!!!!
いったい、どこでおれとサラはここまで差がついてしまったんだろうな……。
「そして、我らのFクラス! まぁ、腐ってもカルア高等魔術学校の生徒だからね。卒業できるレベルがあれば一応仕事はあるんだけど……出世なんかは無理ね」
どうしてネルはこんなに楽しそうに話しているのだろうか。
聞いている限りではFクラスというのはあまり誇るべきものではない気がするのだが……。
——っていうかネルもFクラスってことは彼女も問題児なのか!?
おれの脳裏にケビンとのいざこざが甦る。
ネルはこう見えてケビンのように突然ブチ切れるかもしれない。
おれは少しだけ警戒することにした。
そんなこんなでおれはネルに逆らえるはずもなく、流れに身を任せて彼女の席の隣に座らせてもらった。
それからネルと色々と話した。
おれが話したこととしては出身はエウレス共和国であること。
そして、中等魔術学校は通っていなかったために特別選抜の受験で入学したこと。
それからケビンという獣人に入試で絡また上に、そいつもFクラスに入学していたことなどだ。
「へぇ、今年はFクラスに外部進学が二人もいて驚いたけど二人とも特別選抜だったのね」
ネルはとても興味深そうにおれの話を聞いていた。
そして、今度はネルがこの学校についておれに教えてくれた。
「Fクラスが落ちこぼれって言っても他のクラスと比べたらって話よ。本当にできない子たちは中等部から内部進学できないからね」
どうやらネルが言うには中等部時代の本当の落ちこぼれたちは高等部へ進学できないものらしい。
一定のレベルに達しない者たちがふるいにかけられ、ギリギリ残れるレベルの者たちは高等部のFクラスに進学、ダメだった者たちはそのまま中等部卒業で終わるらしい。
そのため、ここのクラスにいる彼らは高等部に進学できたということもあり、自分たちがFクラスであることに対する劣等感が思ったより少ないそうだ。
「あと、基本的に外部進学者は内部進学できなかった人たちの埋め合わせだからギリギリ進学できた私たちよりも優秀なのよね」
どうやらカルア高等魔術学校では中等部から内部進学ができなかった者たちの枠を補填するために外部からも生徒を募集しているそうだ。
そして、外部から入学してくる生徒は必然的に優秀な生徒のため、Fクラスに入学してくるのは基本的にないそうだ。
まぁ、確かにFクラス相当の生徒を外部から持ってくるのならば、内部からそれ相応の生徒を持ってくればいい話だもんな。
「特別選抜は珍しい境遇の生徒が受験することもあるみたいだしね。それで、Fクラスに入れられたなんてアベルは入試のときに何かやらかしたりしたの?」
ネルが興味津々でおれに尋ねてくる。
顔が近い……。
サラほどじゃないけれど、ネルも十分可愛い部類だよな。
それにいい匂いがする……。
「はい、みなさんおはようございます」
ここで教室中に声が響き渡る。
教室の前を見ると教壇にはドーベル先生がいた。
「じゃあ、よかったらまた今度教えてね」
ネルはウインクしながらそう言うとドーベル先生の方に視線を移す。
ネルのことはよく知らないけれど悪い子ではなさそうだ。
今後も仲良くしたいな……。
おれはそんな風に思っていた。
「私がこの一年Fクラスの主担任であるドーベル=フレランスです。よろしくお願いします。ちなみに、他の七人の副担任の先生方は授業のときにでも挨拶があるでしょう」
へぇー、ドーベル先生は主担任らしく他にもクラスの担任の先生は七人もいるそうだ。
なんだか本格的な教育機関という感じがする。
どんなことを学べるのか少しだけ楽しみだな。
「えー、本当はみなさんに自己紹介でもしてもらいたいのですが、123名もいるので一人一人に自己紹介をしてもらうと時間が足りないです」
「これから共に学校生活を過ごすクラスメイトです。そこは各自で判断して互いに関わりを持っておいてください」
なんとドーベル先生はクラス内での対人関係をおれたちに丸投げしたぞ!?
おれとしては自己紹介で仲良くなれそうな人たちを見極めたかったのに……。
まぁ、おれ自身がおもしろい自己紹介も特技もない以上、悲惨な結果に終わることは目に見えているし構わないんだけどな。
とりあえずネルという獣人の女の子と仲良くなれそうだし、おれにはサラがいるんだ。
あれ……でも、サラってコミュ症なのか?
もしかしてAクラスで友だちをいっぱい作っておれを放置されたらガチでおれに居場所がなくなってしまうぞ。
おれ自身もがんばって友だちまでとまではいかなくても知り合いくらいは欲しいな。
それからドーベル先生の学校生活や学校の校則についての説明があった。
まず基本的に授業は午前に二つ、午後に二つあるらしい。
そして授業はクラス単位で行い、他のクラスとの合同授業というのはないらしい。
実技演習などもアリーナが20個以上あるため他のクラスと被る問題はないそうだ。
サラも言っていたが本当にこの学校は広い上に設備が整っていると思う。
流石世界最高峰の魔術学校と謳うだけでのことはある。
そして、テストや進級についてなどの説明もされた。
正直勉強は嫌だ。
だが、学校に通う以上はなんとか頑張らないといけないよな。
校則としては、校内でむやみやたらに魔法を使ってはいけないことや決闘は学校に申請してからやることなど異世界ならではものがありおもしろかった。
「それではこれから三年間それぞれの目標に向かって励んでください」
ドーベル先生の説明が終わった。
改めて学校に来たんだという実感が湧いてくる。
勉強と友人関係で不安はあるものの、実際に全く知らない世界で全く知らない人たちの中で過ごす学校生活は楽しみだ。
まずは進級は目指してがんばるぞ!
「それではこれから入学式が第1アリーナで行われます。順番は適当でいいので私について来てください」
ドーベル先生はそう告げると教室から出て行った。
生徒たちも先生に続く。
「私たちも行こっか」
ネルが優しくしてくれるのは嬉しいのだが、彼女には他に友だちがいないのだろうか?
そんなことを聞けるはずもなくおれはネルと一緒に周りの生徒たちと共に第1アリーナへと向かうのであった。
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