82話 家族の再会(1)
おれたちはリノとハリスさんの転移魔法でカルア王国の王都にある父さんの実家に着いた。
これは家と呼んでいいのだろうか?
豪邸……?
いや、なんとコメントしていいのかわからない……。
おれたちが転移した場所の目の前には少なくとも五階建くらいの屋敷が存在する。
さらに、おれたちがいる敷地内には広い中庭に加え、池や花畑もある。
それだけでなく、目の前の屋敷の他に左右にも豪邸のような建物が複数並んでいる。
とにかく、この敷地内は広すぎる!
おれは脳内が軽いパニック状態になっていた。
「もしかして、ここがこれからおれとサラが暮らす家ですか?」
おれは敬語で父さんに尋ねてみる。
すると父さんは笑いながら話し出す。
「そうだぞ。アベルはまだまだ小さかったからな、覚えてないのも仕方ないだろう。セアラはどうなんだい?」
「わたしもあまり覚えてはいませんが、あちらの方の建物に住んでいた記憶があります」
父さんの質問にサラは指さして答える。
サラが答えた方向は目の前にある中央の建物ではなく、その右にある建物だ。
本当にこの敷地内にはいくつ屋敷があるのだろうか。
「はっはっはっ。そうだよ、よく覚えていたね。セアラはあそこからカイルやハンナに抱かれてアベルの部屋へ遊びに来ていたんだよ」
どうやらサラの記憶は正しかったらしい。
もちろん、サラが答えた建物も大きいだけにサラたちだけでなく、多くの使用人なんかが住み込んでいたのだろう。
それでも、おれがこの世界に来てから初めてみるスケールの家だけに驚いてしまっている。
おれたちは父さんに連れられて屋敷の玄関に向かって歩いている。
ちなみに、アイシスは魔力を隠して人間の姿で黙っておれたちの後を付いてきている。
ハリスさんはおれたちを転移魔法で送ってくれた後、国王のもとへと向かって行った。
そして、リノもハリスさんに付いていった。
回復魔法をかけたからといって、まだ弱っているハリスさんを一人にしたくはないらしい。
アイシスも弱っているし、リノをハリスさんに付けるのが正解だろうということで彼女にはハリスさんの護衛をお願いした。
そして、おれたちが玄関にたどり着くと、扉の側には一人の警備兵のような男が立っていた。
「おかえりなさいませマルクス様!」
警備兵が父さんに敬礼をする。
父さんはそれに対して軽く手を挙げて応える。
そして、警備兵が扉を開け、屋敷の内部が見える。
「「「おかえりなさいませ旦那様!」」」
おれたちが屋敷に入ると執事とメイドたちがお出迎えをする。
玄関からの道を挟むように二列に分かれて執事やメイドたちがおれたちに
すごい……。
本物のメイドさんだ……!
ここまで既に色々と驚いているおれだったが、メイドさんを生で見られたことに興奮を隠せない。
やはり、メイドというのは男の一つのロマンだと思う。
露出こそ少ないが、そんなことはおれにとってどうでもいい。
まず、メイドという時点でジャスティスなのだ!
おそらく、その奉仕する姿は女性の優しさを感じさせるものなのだろう。
おれの中でメイドさんとは清廉潔白であり、それを表すかのような白を基調とした服装!
まさにパーフェクト!!
おれはメイドさんたちを見て、顔の筋肉が緩んでいたのだろうか。
色々と妄想がはかどり、ニヤけてしまっていた。
すると、おれの足に激痛が走る。
「イッタッッ!!」
おれは思わず声を上げてしまう。
足元を見ると、おれの右足の上にかかとから思いっきり踏みつけるようにしている足が見える。
「あらアベル、ごめんなさいね」
そうおれに言ってくるのは、おれの横にいたサラであった。
その言葉とは裏腹に、サラがおれに向ける冷徹な瞳の奥には怒りのようなものが見え隠れする。
きっと、おれがメイドさんたちを見ていやらしいことを考えていたことに怒っているのだろう。
それにしても足を踏むのはないと思うよ、うん。
「大丈夫か? ここは広いんだし、そんなにくっついていなくてもいいんだぞ」
父さんはそう笑っておれたちを見つめる。
サラは父さんの前ではとてもいい子を演じている。
騙されてはダメですよ、父さん!
サラは策士なんです!!
おれは心の中で届かぬ声を叫ぶ。
「この客人たちはわしが案内しよう。さぁ、みんな付いてきなさい」
父さんは出迎えてくれた執事やメイドたちに自分がおれたちを案内すると伝えると、おれとサラ、そしてアイシスに付いてくるように言う。
おれは右足を少しだけ引きずりながら父さんに付いていく。
「そういえば父さんは大臣だったの?」
おれはハリスさんと父さんの会話を思い出し、父さんに尋ねてみる。
今は国王のもとへ報告しに来なくてもいいけれど、後に大臣たちには召集がかかるからそのときは来るようにと言っていた。
だとすると、父さんはこのカルア王国の大臣なのだろうか?
それに、こんな豪邸に住んでいるんだ。
可能性は高い。
「そうだな。話してなかったが、わしは一応このカルア王国の貴族であり、大臣の一人として務めている。主にわしの仕事は外交関係で、よく他国に出向くこともあるし、他国の重役たちと会談したりしておるのだ」
どうやら父さんは本当に大臣だったらしい。
大臣という地位がどれほどすごいものなのかはっきりとおれにはわからないが、それでも一国の外交を任されているというのだから
「そういえば、ハリス様はどうしておじ様にはタメ口なのに、アベルには敬語を使ってたのですか?」
そう父さんに尋ねるのはサラだ。
確かに、言われてみればハリスさんはずっとおれには敬語を使っている。
おれはアイシスやリノ、それにカシアスに普段から敬語を使われているため普通に流してしまっていた。
今日話していた感じでは、ハリスさんは七英雄たちを敬っていたようだし、七英雄の末裔であるおれに敬語を使うのは不自然ではない。
だが、その理屈でいうのならばおれの父さんにも敬語を使うはずだ。
それに、ハリスさんはずっとおれには《様》付けをしていたのに対し、父さんには「マルクス」と名前で呼び捨てをしていた。
この差はなんなのだろう。
父さんとは親しいからこその呼び捨てなのだろうか?
すると、父さんは少し悩んでから答えた。
「実はわしも昔聞いてみたんだ。ハリス様は昔からアベルのことを自分の主人のように敬っていたからね。そしたら、『アベル様は私にとって特別な存在だからです』とだけ話して、それ以降は教えてくれなかったんだ」
父さんは笑いながらそう語る。
おれが特別?
いったいなんのことなのだろうか。
おれがハリスさんに出会ったのは今日を除けば一回だけ。
まだおれが小さかったときだ。
そのときに何かあったっけ?
おれは自分の頭で考えてみるが全くわからない。
そして、思考を放棄した。
「確かに、闇属性魔法を無詠唱で使う召喚術師は特別ですよね」
サラは父さんにそう答えるが、父さんは黙ってしまった。
「そうだな……」
少しばかり気まずい空気が流れる。
もしかしたら、父さんは過去のトラウマを思い出してしまったのかもしれない。
そして、それ以降は特に会話もないまま目的地へとたどり着いた。
階段をいくつも登り、四階にある一つの部屋の前。
「それじゃ、いこう」
父さんはそう言うと、部屋のドアを数回ノックしてから扉を開ける。
そして、父さんの後をおれたちを付いていく。
部屋の中は応客間かと思うほど広かったが、おそらくここはそうじゃない。
大きな数人が座れるテーブルも存在したが、一人分の小さな机もソファーもある。
ベッドこそなかったが、基本的には一人が過ごす部屋なのだろう。
壁には装飾品はもちろん、絵画も飾られている。
おれはそのうちの一つの絵に魅入ってしまった。
男性と女性、そして女性が抱く赤ん坊の絵だ。
男性は父さんに似ている。
小太りで髪の毛は少しさみしくて、それでも人を魅了する笑顔で描かれている。
そして、黒髪の女性は可愛いというよりは美人という印象だ。
その女性は幸せそうに赤ん坊を抱く姿が描かれている。
「あら、あなた。おかえりなさい」
窓側で外を見つめていた女性が振り返り、父さんに声をかける。
そこには気品あふれる一人の女性がいた。
長く、美しい黒髪を持つ女性。
身に纏うのは暗い藍色のドレスであり、彼女の魅力を存分に引き立てている。
まるで先ほどおれが魅入っていた一枚の絵に描かれてたモデルのような女性——。
いや、その人がそこにはいた。
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