65話 冒険者ギルド in カルア王国

  2年ぶりにフォルステリアに戻ってきた。


  それにより地龍であるヴィエラとは一時的に別れることになってしまった。

  流石に人間界最強の魔物を連れて回るわけにはいかない。

  それも体長10メートルを越す地龍ともなればなおさらだ。


  だから、ヴィエラに関してはヴァルターさんに冒険者たちに討伐されないよう、しっかりと手を回してくれるようにお願いしておいた。


  ヴィエラ!!

  絶対にいつかお前を引き取りに行くからな。

  おれは心にそう誓った。


  そんなおれたちが現在やってきたのはフォルステリア最大の国家であるカルア王国だ。


  どうしてカルア王国に来たのかというと、フォルステリア大陸における冒険者ギルドの本部に用があるからだ。

  なぜここの冒険者ギルドに用があるかというと、大量のリナをニアに両替するのだ!


  リナというのはゼノシア大陸の通貨で、ニアというのはフォルステリアの通貨だ。

  なぜおれが大量のリナを持っているかというと、ヴァルターさんに今まで討伐してきた魔物の素材を買い取ってもらったのだ。


  本来であれば魔物の素材を取引するには冒険者ギルドと冒険者の間でしなければならない。

  しかし、これはゼノシア大陸の冒険者ギルドにおいてということらしい。


  元々ゼノシア大陸はエルフたちの大陸であり、エルフが人間よりも魔力が高く、スキル所持数2の種族ということから、冒険者ギルドから依頼されるクエストの大半をエルフたちがこなしていたらしい。


  そして、人間よりも安定して魔物の素材を手に入れることができたエルフたちは商人たちと独占契約を交わすことになっていった。


  それにより、人間たちが魔物討伐という依頼を受けても魔物の素材を正規の値段で売ることのできない時代が続いた。


  商人たちはエルフたちのおかげでまとまった量の素材を定期的に手に入れることができたため、不当な取引を人間たちに要求したのだ。

  それを見かねた冒険者ギルドが人間たちのために規則を変更し、法律の改正のための活動をして現在のルールができたらしい。


  しかし、これはゼノシア大陸の話であり、アルガキア大陸のギルド職員にあたるヴァルターさんには関係ないそうだ。


  取引場所がゼノシア大陸だけど、法律的にはアルガキア大陸のものに従うのか?

  おれは法律的にはアウトな気もするが、冒険者ギルドのグランドマスターであるヴァルターは問題ないと言っていた。

  彼が白と言えば黒もまた白になるのだ!


  まぁ、これは権力の濫用だろう。

  おれは心の中でそう思った。


  そして、ヴァルターさんはゼノシア大陸にやってきたということで手持ちに持っていた数百万リナ分の金貨をバラバラと地面に落としながらおれにくれた。

  取引といいつつ金額は適当なんだよな。


  ヴァルターさんは手持ちの硬貨をありったけ全部くれたのだ。

  絶対にこれって貰いすぎな気がする。


  2年分の討伐した魔物の素材とはいえ、こんな額で取引されているはずはない。

  もしかしたら、ヴァルターさんはけっこう大雑把な性格なのかもしれない。


  そんなこんなでおれは大量のリナを手にしたのだ。

  そして、おれたちは冒険者ギルド・カルア王国本部に到着する。

  このカルア王国本部というのがフォルステリア大陸本部の役割もしているらしい。


  面積的にはどれくらいだろう?

  野球場のドーム一個分くらいの大きさだろうか?

  いや、もっとあるな。

 とても大きなレンガ造りの建造物で建物の端が見えない。


  おれとアイシスは建物内部へと入る。

  やっぱゼノシア大陸で見たローナ地方の冒険者ギルドと内観は違うな。

  インテリアをはじめ職員の制服、そして何より冒険者たちの顔の輝きが違う気がした。

  何だがおれの中の冒険者ギルドのイメージが崩れていくな。


  「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」


  赤色を基調とした制服をまとった優しそうなお兄さんが声をかける。


  今回はトラブルに発展しませんように!

  おれは心の中でそう願う。


  「私たちはリナの両替をしに来ました」


  アイシスが職員のお兄さんに目的を告げる。


  すると、お兄さんは少しだけ困ったような表情を浮かべる。


  「すみません……。両替ならばわざわざ冒険者ギルドでしなくても良いと思うのですが……」


  確かに両替をするのなら冒険者ギルドでなく、金融機関に行くべきだ。

  しかし、わざわざ冒険者ギルドに両替にやってきたのには意味がある。


  冒険者でもない、身寄りもはっきりとしていない子どもであるおれが大金を両替しようとすれば問題となるのはわかりきっている。


  きっと、どうやってこの大金を手に入れたのか、そしてどのようにその大金を使うのかと根掘り葉掘り聞かれ、悪い大人たちに利用されそうになるだろう。

  そもそも知り合いに魔物の部位を売る取引をしたら大金が手に入りましたなんて通じないだろうしな。


  そこでヴァルターさんのコネを最大限利用するのだ。


  「詳細は後で話します。とりあえず偉い人を呼んでください」


  おれはヴァルターさんに預かってきた手紙を職員のお兄さんに渡す。

  この手紙には特殊な魔道具のシールが貼ってある。

  お兄さんはこのシールを見て顔色を変える。


  「ただいま責任者を呼んでいます!」


  お兄さんは全速力で走って、ギルド職員たちがいるであろうスタッフオンリー感のする部屋へと入っていった。

  やはりコネは異世界でも最強の武器になるな。

  見ず知らずの子どもであるおれでさえ、あの手紙を見せれば冒険者ギルドのお偉いさんとお話ができるのだ。


  「おい、あれってカルア高等魔術学校の生徒じゃないか?」


  すると、何やら冒険者たちの声が聞こえる。

  そうか、当たり前だけどここにも高等魔術学校というものが存在するんだよな。


  おれは冒険者たちの話題に少しだけ耳を傾ける。

  どうやら冒険者への依頼の掲示板にいる一人の青年に関してのうわさをしているようだ。


  灰色を基調としたスタイリッシュなデザインの制服、そして青色の髪で爽やかなルックス。

  うん、イケメンだ。

  彼は学生にして冒険者なのだろうか。


  「いくらカルア高等魔術学校がフォルステリア最高峰の魔術学校だからって、たかが学生が高ランク冒険者向けの依頼を見ているっていうのはムカつくよな」


  「いやいや、でもあの学校のトップ陣はソロのAランク冒険者級の実力って話を聞くぜ。もしかしたらあのガキもそのたぐいなのかもしれねぇぜ」


  どうやらここにある高等魔術学校はフォルステリア最高峰の魔術学校らしい。

  おれはもう少し冒険者たちの話を聞こうしたがそれは無理だった。


  先ほど職員のお兄さんが入っていった部屋から青色の髪をしたナイスバディのメガネお姉さんがおれのところへやってきたのだ。

  おれもそろそろ思春期の男の子。

  イケメンの青年より、色気のあるお姉さんの方に興味がある。


  「アベル様で間違いありませんか?」


  突然、色気爆発のお姉さんがおれに話しかける。

  おれは心臓をバクバクさせながらあわあわと答えた。


  「えっ……はっ、はい!!」


  いきなり過ぎるイベントにおれは驚いてしまった。


  「それではあちらの部屋にお越し下さい」


  お姉さんはおれに笑顔でそう告げる。


  お姉さんが例の手紙を持っていなければ、おれは多少色々と期待した部分もあったのだが……まぁ、そんなイベントは起きないよな。


  おれとアイシスはお姉さんに案内されるままに部屋へとついて行く。


  そして、到着した部屋にいるのはおれとアイシス、そしてお姉さんの三人だけ。

  ローナ地方のときとは違い、お姉さんに警護が付いているということはなかった。


  「それでは改めまして、わたしは冒険者ギルド・カルア王国本部、副ギルドマスターのエマ=クロネリアスです。本日の用件はリナの両替ということでよろしいでしょうか?」


  このお姉さんはどうやら冒険者ギルドの副ギルドマスターのようだ。

  見た目はカレンさんと同じ年くらいに見えるし、たぶん20歳前後とかなのかな?

  若いのに副ギルドマスターなんてすごいな。


  いや、だがおれはそれ以上にスムーズにリナの両替の流れに進みそうなことに驚いている。


  「えっと……。おれみたいな子どもが大金を持っていること、あやしいとか思わないんですか?」


  おれは思ったことを素直に伝えてみる。

  おかしい、おれの異世界ライフでこんなにサクサクとスムーズに物事が進むなんてこと今までになかったぞ。


  「はい、本来ならばそう思う職員も多いのかもしれませんが、この手紙としるしを見てしまったら話は別です」


  そうだ、エマさんが言っているしるし、つまりあのシールは冒険者ギルドのお偉いさんたちが使う魔道具の一種らしい。

  あのシールは使うときに魔力を流し込むことでシールにその人の魔力が表されるようになっている。


  魔力は一人一人若干違いがあるので、シールに刻み込まれる紋章も異なるものが表示される。

  この魔道具によって人の識別ができるというわけだ。


  そして、手紙にはおれとアイシスの見た目の特徴。

  それからおれに大量のリナを払うことになった取引を行ったことが書いてあった。


  さらに手紙にヴァルターさんの魔力が表されていることにより、おれとアイシスが正当な方法でこの大量のリナを手に入れたということが証明されるわけだ。


  冒険者ギルド以外ではヴァルターさんのシールを読み取れる者がいないため、この戦法は使えないということで今回は冒険者ギルドでの両替を行うということになったのだ。


  「けっこう、ヴァルターさんからの手紙を持ってくる人って居るんですか?」


  おれはエマさん問いかける。


  このシールのような魔道具はとても便利だ。

  ヴァルターさんはこれを見せれば大丈夫と自信満々に言っていた。

  彼はこの手法でそれなりにカルア王国本部の冒険者ギルドと連絡を取っていたのかもしれない。


  しかし、エマさんの態度を見る感じそうでもないようであった。


  「ありえません!! こんなこと初めてですよ!! 職員が持ってきたこの手紙にある印の紋章を調べてみたら、グランドマスターのヴァルター=カルステン様だったんですよ!? ありえません! 夢みたいです」


  エマさんは見た目に似合わず興奮している。


  「そっ、そうだったんですね……」


  やっぱり冒険者ギルドという組織においてヴァルターさんはすごい人なんだな。


  まぁ、祖先が七英雄であり冒険者ギルドの創設者ってだけですごいことだよな。

 

  「すみません。あまりに光栄な仕事をさせてもらえていると興奮してしまいました。それでは、問題なくリナをニアに両替させてもらいますね」


  その後、エマさんはおれから大量の金貨のリナを預かり、台車で山積みになっているニアを持ってきてくれた。


  おれは山積みになっているニアを見て驚く。

  リナは銅貨、銀貨、金貨を使っているが、ニアは銅貨と銀貨しかないらしい。

  フォルステリア大陸の人口は三大陸最大であり、金貨を通貨として流通させるだけのきんがないからだそうだ。


  噂によると、金というは庶民に流通されるのではなく各王国のお偉いさんたちが外交としてのみ利用しているらしい。


  おれは台車に乗っている山積みになったニアを見て珍しく興奮してしまう。

  あぁ、絶景だな……。

  こんな視覚的にこれほどの大金を感じることなど初めてだ。


  おれは、ヴァルターさんに魔物の素材を売り払い、すっかりからっぽになった魔道具の収納袋に大量のニアをき込んだ。


  そして、エマさんにお礼を言って冒険者ギルドを後にするのであった——。




  ◇◇◇




  よし、よしっ!

  これでようやくバルバドさんやカレンさんにサラの学費や高等魔術学校に通うためにの資金を払ってもらう必要もなくなる。

  おれとしてはバルバドさんたちには自分たちのためにお金を使って欲しい。


  それに、今回の出来事でおれ自身もサラと同じ学校に通えるだけの資金も手に入った。

  学校に通うのは憂鬱だけど、サラのお願いなら仕方がない。

  異世界学園生活を送るとしよう。


  おれは旅の当初の目的を果たし、大変満足する。


  「アイシス、ありがとうな。アイシスのおかげでここまでやってこれたよ!」


  二人きりになったところでおれはアイシスに感謝を伝える。


  この2年間、アイシスのおかげで強くなれたし、大切な仲間にも出会えた。

  学校に通うための資金も手に入れることができた。

  本当に感謝しても仕切れない。


  「私は私の使命に従って行動したまでです。しかし……ありがとうございます」


  アイシスは珍しく嬉しそうに頬をゆるませる。

  こんな表情のアイシスを見たのは初めてかもしれない。


  「アベル様には信用されていないと思っていたので、そのようなお言葉をいただけて私も嬉しいです」


  アイシスの言葉が胸にささる。


  初めて出会った日のことまだ覚えていたのか。

  あの頃はね……?


  「それについては本当にすまないと思っている」


  おれは頭を下げてアイシスに謝る。


  「私は全く気にしていませんよ。顔を上げてください」


  この2年間で少しはアイシスと仲良くなれたのかもしれない。

  本気でぶつかったときもあったけど、アイシスはいつもおれのことを想ってくれてたよな。


  「なぁ、アイシス。サラたちのところに戻る前に行きたいところがあるんだ。付いてきてくれないか」


  「はい、もちろんです。私はアベル様に付いて行きます」


  少しだけ気になることがある。

  フォルステリア大陸のカルア王国に転移したときのこと。

  冒険者ギルドに向かう前、おれたちはアイシスの転移魔法で森に出た。

  初めて来たはずの場所なのに、なぜだか見覚えがあったのだ。

  何か大切なものがあそこにはあるかもしれないと直観が叫んでいた。


  そして、おれとアイシスはカルア王国のとある森へと向かったのであった。

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