57話 Sランク冒険者パーティー
それはよく晴れた秋の昼下がり。
ゼノシア大陸ローナ地方のとある岩山。
そこでおれはいつもように一人で魔力制御の練習をしていた。
アイシスは転移魔法であっちこっち回って冒険者ギルドの動向を調べてくれている。
彼女はカシアスに代わっておれの側にいなくていいのかと思うこともある。
しかし、カシアスがおれの側にいようとしたのは契約を交わしたからであり、リノがサラを護衛として見守るのとはまた別の話だ。
だったらなおさら、カシアスはおれの側にいなくてはいけないのではないかと思うが……まぁ、やつはやつなりの仕事があるらしい。
おれは訓練を終え、いつものように岩陰でひと休みをしていた。
すると、何やら人の声が聞こえてきた。
いったいどこからだろう?
おれは耳を澄ませてジッとしてみる。
「なぁ、ちょっと休もうぜ。おれ、昨日あんまり寝てないんだよ」
「また女遊びか? いい加減お前も気高きエルフとして行動してくれないか。年中欲情してるなんて人間みたいで気持ち悪いぞ」
「本当にそう……。同じエルフとして気持ち悪い。貴方が赤の他人だったら今すぐにでも殺したいくらい」
「でも、この人間みたいなゴミ虫野郎の意見には賛成。休めるときに休んでおくべき」
「ちょっと、みんなひどくない? おれたち同じパーティーの仲間だろ? なっ? なっ?」
どうやらエルフたちが近くにやってきたようだ。
別におれは特別な魔法や魔道具などを使って話を聞いているわけではない。
エルフたちが大きな声で喋っているから聞こえてくるのだ。
「とりあえず貴方は口を閉じていて。貴方が吐く息が空気を汚染している」
「ちょっと、サンリナちゃん! それは酷すぎるよー」
「キモい。名前で呼ばないで……」
「おっ、あそこの岩陰なんて休むのにはどうだ?」
「いいわね。それじゃ、あそこで休みましょう」
そしてエルフたちの姿が見える。
男が二人に女が二人。
どうやらおれが休んでいる岩陰に来るようだ。
まぁ、わざわざおれが
おれはのんびりとリラックスをしてくつろいでいた。
「おや、人間の子どもがいるな」
男の一人がぼそりとつぶやく。
年齢は……エルフの年齢はわからんな。
人間の見た目で照らし合わせたら30歳くらいに見える。
こいつら冒険者か……?
だとしたら随分といい装備をしているな。
「レンドラー、それは本当? まぁ、人間でも子どもなら我慢してあげるわ」
女がつぶやく。
こちらは見た目25歳くらい。
後ろにひとつ結びをした長い髪が垂れている。
正直めちゃくちゃの美人だ。
「でもサンリナ、あの子どうやら男の子みたいよ。人間嫌いで男嫌いの貴女からしたら最悪ね」
こちらの女の子は18歳くらいか?
眼鏡をかけており童顔だ。
「なんだよ、男かよ。どこかに女の子はいたりしないかな?」
あぁ、これはおれの苦手なタイプだ。
チャラい。
金髪ピアスに微妙にイケメンを崩した顔立ち。
年齢は20歳前後に見える。
「リアン、あんた人間にも欲情するの? 本当に気持ち悪い。いい加減死んでくれない」
ひとつ結びの美人がチャラ男に毒を吐く。
「っていうかやっぱり人間の男の近くにいるなんて無理。先を急ごう」
女は続けてそう他の三人に伝える。
「あのー、全部まる聞こえですよー」
おれは、いい加減
こっちは疲れて休んでいるんだ。
休憩中にイライラさせないで欲しい。
「すまなかったな、人間の少年よ。私の仲間が失礼なことを言ってしまった。ところで、少年はここで何をしているんだ? ここは危ないぞ」
大剣を背負った30歳くらいの男がおれにそう言ってきた。
「別に構いませんよ。見ての通り休憩中です。それに危ないのなら、おじさんたちこそ帰った方がいんじゃないですか?」
おれのこのひと言に女がブチ切れる。
「ちょっと、あんた失礼過ぎない! もっと私たちに敬意を持って接しなさいよ」
おじさんたちと言ったことに対して怒ったのだろうか?
おれはエルフの知り合いなどいないから詳しくはわからないが、人間の子どもであるおれから見ればエルフの皆さんはおじいさん、おばあさんでも済まないはずだ。
だが、失礼であったのなら謝らないとな。
「これはすみませんでした。エルフのお姉さん」
おれは軽く頭を下げて謝る。
しかし、女の怒りは収まらない。
「アンタ、私たちが誰だかわかっていて言っているの? 人間のくせに生意気なのよ! さっさと自分の村に戻りなさいよ」
あれれ、どうしてこの女は怒っているのだろうか?
おれには全くわからぬ。
すると、チャラ男が出てきた。
「まぁまぁ、サンリナちゃん。見たところ貧しい身なりだし、おれたちの輝かしい伝説を知らないだけだって! それに怒ってばっかじゃお肌に悪いよ」
チャラ男は女にウインクをしてそう言った。
「はぁ? やめてくれない。背筋が凍るくらい気持ち悪いんだけど」
女がチャラ男から距離をとる。
うん、これに関してはおれも同感だ。
それにしても輝かしい伝説とは一体なんのことなのだろう。
もしかして、この中のエルフの一人が七英雄のカタリーナ様とやらなのか?
——と思ったけど四人の名前を聞いている限り違うっぽいよな。
「ちょっときみ、私たちに名前を教えてくれないかい?」
童顔の女がおれに話しかけてきた。
見た目は魔法使いだろうか?
なんか、のほほーんとしておりあまり強そうではないな。
「ちょっとエバンナ。よりにもよってあんな人間の子どもをナンパするのかよ。さっき散々おれに言っていたのにそれはないぜ」
チャラ男が童顔女に文句を言っている。
「リアン、お前は少し黙ってろ」
そう言って大剣のおじさん。
いや、お兄さんにチャラ男は怒られていた。
「おれの名前はアベルです」
どうしてこの童顔女はおれの名前を知りたがっているのか。
チャラ男の言っていたようなナンパのはずはない。
誰か共通の知人でもいるのだろうか?
おれの名前を聞くと童顔女はニヤリと笑う。
「あなた、ギルド職員誘拐事件及び副ギルドマスター暗殺未遂で指名手配されているアベルよね……?」
女のこの発言に、おれは一瞬で背筋が凍りつき鳥肌が立つ。
何なんだ……この女は?
「おい、エバンナ。それは本当か……?」
「えぇ、私の記憶に間違いはない。あの黒髪に、あのくらいの年齢、そして名前を呼ばれたときの動揺。おそらくあの子で間違いないわ」
もう2年間何もなかったし、この世界では写真も存在しないということで油断し切っていた。
まさか、そんな記憶力と洞察力を持っているやつがいたとは……。
「えぇ、そうですよ。ぼくは指名手配されています。だったらどうしますか?」
おれは嘘をつくことはせず、開き直るように堂々とそう宣言する。
おそらくこいつらは冒険者ギルドの職員ではなく冒険者パーティーなのだろう。
だとしたら戦わなくて済むのかもしれない。
「そんなの答えるまでもねぇだろ。大人しくおれらに付いてきてもらおうか」
チャラ男が意気揚々とそう騒ぐ。
お前は黙ってろと心の中でおれは叫ぶ。
「その件なんですけどね、実はわけがありまして……」
こいつらだって冒険者なんだ。
冒険者ギルドにうらみの一つや二つくらいあるだろう。
ここは事情を説明しよう。
「悪いけど貴方の意見なんて関係ないの。どんな事情があるのか知らないけれど、貴方はギルドに指名手配されている。それが全てよ」
ひとつ結びの女がおれに高らかに宣言する。
どうやらおれの話なんて全く聞いてくれないらしい。
「ふふふっ、地龍を狩るなんかよりよっぽど楽にお金が手に入るわね。これでまた一歩私の夢に近づく」
童顔女が微笑んでいる。
うん、どうやらこいつも無理らしいな。
話の通じないチャラ男に、人間嫌いで男嫌いのひとつ結び女、そして逝ってしまっている童顔女。
おれは完全に追い詰められた獲物状態だ。
「お前たち、ここはリーダーである俺に任せてくれ」
大剣のおじさん。
いや、お兄さんが他の三人を手で遮っておれに近づいてくる。
「抵抗しないのなら私たちも手荒なマネはしない。だから、大人しく私たちに付いてきてくれないか」
どうやらこの人だけは
いや、でも結局おれの話は聞いてくれないんだな……。
「お兄さん悪いね。おれはアンタらに従って付いて行くつもりはない。だって、おれは何ひとつ人として間違ったことはしたつもりないからね」
おれは魔道具の収納袋から剣を取り出して大剣のおじさんに刃を向ける。
「もしも無理やりにでも連れていくというのなら、少しばかり抵抗しちゃおうかな」
さぁ、どうする?
あんたはこのいたいけな少年に剣を向ける気かい?
「そうか少年……。俺たちはゼノシア大陸最高峰のSランク冒険者パーティー『ニルヴァーナ』。そして、おれは剣士レンドラー」
「この名前を聞いてもまだ立ち向かってくる勇気があるのなら相手になろう。すぐに楽にしてやるがな」
大剣のおじさんレンドラーが剣を抜きおれに向ける。
どうやら争いは避けられないらしいな。
「悪いね、おれは七英雄の名前すらろくに知らないんだ。あんたらの名前なんて聞いたところでどうにもならないさ」
おれとレンドラーが相対する。
さて、Sランク冒険者とやらの実力を見せてもらうか。
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