10話 素敵な誕生日(2)

  おれは5歳の誕生日を迎え、家族から祝福を受ける。


  サラはいつもの強気な態度とは異なり、まるで優しい女の子のようで思わず可愛いと思ってしまった。

  また、ハンナ母さんの意地悪もあって、おれとサラの結婚の話題となり少しドタバタがあったがこれからもおれはサラと楽しくやっていけそうだ。


  そして、話が終わったと思ったところでカイル父さんがおれたち二人の結婚に反対はしない発言。

  これにより朝食中の話題は結婚のことでおれとサラがいじられることになったのはまた別の話だ。



  ◇◇◇



  朝食を食べ終わりカイル父さんとハンナ母さんが片付けをしており、おれとサラもそれを手伝う。

  4人でやるとすぐに終わった。


  基本的にハンナ母さんは専業主婦なので家事全般をやるが、カイル父さんも仕事がない日はよく手伝っている。

  まぁ、今日の朝食は手間のかかる物がなかったためハンナ母さんが一人で作ってくれたのだが。


  テーブルの上が片付いたところでカイル父さんが地下室から水晶と本を持ってきて置いた。

  水晶は淡く光っており綺麗な水色である。


  本はそれほど分厚くなくまるで新書のように綺麗な状態である。

  その本には《スキル判定の書》と書かれている。

  どうやらあの本もこれからおれのスキルを調べるのに使うらしい。


  去年、サラがカイル父さんにスキルを見てもらったとき、おれは熱が出ており二階の自室でハンナ母さんに看病されながら寝ていた。


  だからこの水晶や本を見たのは初めてだ。

  おれはこれから行われることが楽しみでしょうがない。


  「ベルちゃん、珍しく顔がニコニコしてるわね」


  ハンナ母さんが落ち着かないおれを見てそう話す。


  「うん! だってすごい楽しみだったんだもん」


  「アベルの場合どんなスキルを持っているかわからないからね。わたしも珍しく落ち着かないよ」


  カイル父さんも心なしかいつもより頬が緩んでいる気がする。

  純粋に自分に自信があって期待されていることは嬉しく感じる。


  「わたしはスキル3つ持ちよ! アベルも3つあるといいわね」


  まぁ、サラはいつも通りだ。

  だが、おれはこういうサラが大好きなんだよな。


  「父さん、ぼくはサラお姉さんの自慢の弟になれるようになりたいです」


  「自慢の弟……悪くないはね。アベル! わたしとパパの訓練にしっかりと付いてくるのよ」


  うん、サラはチョロいところまでいつも通りだ。

  カイル父さんに話すようにしながら間接的にサラを気持ちよくさせてあげる。


  「はっはっはっ、そうだね。サラの自慢の弟になれるように頑張ろうね。さて、準備もできたことだし、さっそくアベルのスキルを見てあげようか」


  そう言ってカイル父さんは水晶をおれの目の前に差し出した。

  改めて水晶をみると神秘的に輝くそれに瞳を奪われる。


  吸い込まれるかのように透き通った水色の水晶をおれは見つめる。


  「綺麗だろう。わたしも始めてこれを見たときにアベルと同じことをしたものだよ。さあ、水晶に両手で触れてごらん」


  おれはカイル父さんに言われた通りに水晶に手を伸ばした。

  両手の親指と人差し指で三角形を作るようにして水晶に触れた。


  5歳児の身体だからだろう。

  水晶がとても大きく感じる。

  触れてから少し経つと僅かにだが魔力が吸い込まれるように感じた。


  そして水晶の真上に緑色の光が投影された。

  これは前世の記憶でいうホログラムのようだ。


  どうやらおれから吸い取った魔力を使って空中にスキルについての情報を投影する仕組みらしい。

  少し経つと3つの波形が重なり合う模様と、その右に3つの言葉が映し出された。


  「おおっ、アベルもスキルが3個あるぞ! もしかしたらとは思っていたがこれは驚いたな」


  カイル父さんはおれにもサラと同様にスキルが3つあったことに驚いているようだ。


  「ベルちゃんも3個持ちなの? わたしもパパも2個なのにな。子は親を越えるってことかしらね」


  ハンナ母さんは驚きよきも喜びが強いようだ。

  やはり子どもが自分たちを越えていく可能性があるということは嬉しいものなのだろうか。


  「へぇー、アベルにしてはやるじゃない。まあ、スキルの数は同じでも実力ではわたしの方がまだまだ上なんだからね。これからがんばりなさい」


  サラは両手を腰に当ててドヤ顔をしている。

  サラと長年くらしてきておれは顔を見ればわかるが、なんだかんだおれがスキル3つ持ちなのを喜んでくれているようだ。


  みんなそれぞれおれのスキルが3つあることを祝ってくれている。

  今、水晶から空中に投影されているいるのは3つの波形と3つの文字。


  よく見ると全部緑色だがそれぞれの波は色の濃さが違う。

  そして、右にある3つの文字も3種類の波の緑色に対応している。


  おれにはなんとくわかってしまった。


  この波がおれのスキルの魔力を可視化したものなのだろう。

  そして、そのスキルに対応している文字がスキル名だと……。


  おれは3つの文字に目を通し、そして唖然あぜんとしていた。


  1つ目

  『召喚術師』


  カイル父さんは精霊術師だ。

  精霊を召喚して使役しているのを何度も見たことがある。


  おれは何を召喚できるのだろうか。

  魔獣とかだろうか、それとも父さんみたいに精霊も召喚できるのか?

  もしかしたら人間とかも召喚できるのだろうか?


  2つ目

  『—未習得—』


  これはどういうことだろう?


  未習得ということはこれから習得できるスキルということなのだろうか。

  だとしたらおれは既に召喚術師としてのスキルは習得済みということになる。


  そして、おれは最後の3番目の文字を見た。


  そこにはこう書かれていた。











  3つ目

  『魔王』











  おれは一瞬で思考が停止した。

  一体何が起きているんだと……。


  『魔王』、『魔王』、『魔王』……。

  その単語が頭の中を駆け巡る。


  カイル父さんの言葉が頭をよぎる。


  今から800年前にこの人間界は滅びかけたと。

  そして、その原因の一つとして『魔王』の仕業だという説があると。


  おれは人間には使えない闇属性の魔法が使える。

  もしも、その理由がこのスキル『魔王』を持っていたからだとしたら……。


  おれは800年前の人間界の危機に関わっているのか。


  いや、おれは七英雄の末裔なんだろ。

  だとしたら魔王は関係ないはずだ。


  しかし、当時の魔王とは関係ないとしてもこれからはおれはこの世界を滅亡させることになるのか?


  確か七英雄は犠牲を出しながらも人間界を救った……。

  犠牲って一体何なんだよ。


  もしかして、七英雄の血に何か仕組んだのか?

  いや、だとしたらおれ以外にも七英雄の血を引くもので闇属性の魔法を使える者が……。


  おれに話しかける父さんたちの声はおれの耳には届いていたが心には届いていなかった。


  おれはひたすらスキル『魔王』を持つ原因とそれがもたらす結果を考えずにはいられなかった……。

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