面接代行業者

「あの、僕こんなん頼むの初めてなんですけど、本当にうまくやってくれるんですよね?」

男の問いに女性が大きく頷いた。

「ええ、もちろんですよ! それが私たち面接代行業者ですから!」

「一応確認しておきますけど、僕は面接官じゃなくて、面接を受ける側なんですけど、それでも代行してくれるってことで良いんですよね……?」

「もちろんです!」

「あなたに自分のアピールポイントも伝えてないですし、そもそも履歴書の写真と見た目が全然違いますけど、それでも大丈夫ですかね……?」

「もちろんです! あなたはただ待っておいて貰えばいいんです! それが面接代行業者の仕事ですから!」

面接代行業者と名乗る女性が胸を張って答えた。初めての依頼にしっかり応えるために、女性は面接会場へと向かう。


☆☆☆☆☆


「それじゃあ、これから面接を始めるね」

面接官の言葉を聞いて、面接代行業者の女性は「よろしくお願い致します!」と元気に答えた。

「まず、あなたの名前と簡単な自己PRをお願いしていいかな」

「名前は覚えていません! 自己PRは、正確なことはわからないですけど、なんとなく良い人そうでしたよ!」

女性の答えを聞いて、面接官が困惑していた。


「えっと……。名前を覚えていないってどういうことかな……? それに、自己PRなのになんで他人事なんだい……?」

「ここの会社を受けたいのは私じゃないんで!」

「え……?」

「私はあくまでも面接代行業者ですので!」

「君は誰かの代わりに来ていると?」

「はい!」

女性が終始元気良く答えたおかげで、相変わらず困惑はしているが、状況には納得してくれたらしい。とりあえず面接官が頭を抱えながら頷いていた。


「本人が来てくれないと採用面接にはならないんだけど……」

「依頼者が困っていそうだったので、良かれと思ってやりました!」

「さっきから随分堂々としているね……」

「前向きなことだけが取り柄ですので! 私はどんな逆境に立っても堂々としますよ!」

面接官が「そうか」と小さく頷いた。


「君、名前は何と言うんだい?」

「私の名前なんて聞いても意味ないですよ! 依頼者のために来ているんですから!」

「まあ、そう言わずに、名前を。あと、簡単な自己PRもしてもらっていいかな?」

「そうですか、では、遠慮なく名乗らせていただきます! 私の名前は……」


☆☆☆☆☆


「で、結果はどうだったんですか?」

面接の日から数日後、緊張した面持ちで依頼者が尋ねてきた。

「無事に合格でしたよ!」

「おおっ。よかったです。上手くいくものなんですね」

依頼者が安堵のため息をついた。

「じゃあ、いつから勤務するかとかも教えてもらって良いですか?」

「はい! さっそく来週から勤務してほしいと言われたので頑張ってきます! 会社のためにバリバリ働いてきますよー!」

「……ん?」

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