季節外れ

「ねえ、このポスターって……」

友達と街を歩いていると、私は『秋の大花火大会開催!』と書かれた綺麗な花火の写真が使われているポスターが気になり、足を止めた。

「珍しいよね。普通花火大会って夏にやるのに、11月開催なんて。結構季節外れだよね」

友達が笑う。

「それもあるけど、それ以上に……」

私が続ける前に友達が話し出した。


「でもね、今年秋にやるのは事情があるんだよ」

「事情?」

「そう。花火職人さんが手を怪我しちゃって、今年は例年夏休みシーズンにやってる花火大会ができなかったじゃん?」

今年は夏祭りの花火大会が中止になってしまったので、少し寂しかったのを覚えている。私が頷くと、友達は続けた。


「職人さんが夏は花火ができなくて楽しみしてくれてた子たちに悪かったから少し遅いけど花火を作って打ち上げられないだろうかって話になって、市の職員さんたちも協力してくれたから、今年は少し時期外れだけど秋に大々的に花火大会をすることになったってわけ」

私はふーん、と相槌を打ったけど気になるのはそこじゃない。


「いろいろ背景まで丁寧に説明してくれたのは嬉しいんだけど、その花火大会はこの間一緒に見に行ったじゃない」

私は呆れて真っ白なため息を吐き出した。秋に開催される季節外れの花火大会についてはとっくに楽しんで、今の季節はすでに真冬になっている。当の昔に花火当日は終わり、秋空を彩る綺麗な花火の思い出も少し薄れてきてしまっている。


「私が気になっているのは花火大会の時期じゃなくて、このポスターが貼られている時期よ。このポスター剥がし忘れているとかじゃなくて、わざわざ最近になって、とっくに花火大会が終わった時期に貼られ出しているからそれが不思議なのよ」

私が尋ねると、友達が「ああ、そういうことね」と軽く頷いてから続けた。


「季節外れの花火大会を大々的に宣伝するためにポスターをしっかり作り込んでいるうちにとっくに花火大会が終わっちゃったんだけど、せっかく豪勢に作ったのに人目に触れないのはもったいないからって今更貼りだしたらしいよ」

友達の説明を聞いて、私はもう一度白いため息を吐き出した。

「……ポスターの方も季節外れなのね」

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