家の鍵を開けるためのボタン
「あれ、まだお兄ちゃん帰って来てなかったのかぁ」
目の前で同じクラスの友達がガッカリしている。今日は学校帰りに友達の家に遊びに来たのだが、どうやら家の鍵が開いていない様子だった。
「家の鍵開いてないんだったら、遊ぶ場所わたしの家にする?」
わたしはそう言ったけど、彼女は首を横に振った。
「大丈夫!家の鍵開けるためのボタンを大家さんに貰ってるから!」
そう言って彼女が取り出したのは手のひらサイズのボードの上にボタンが3つ配置してある機械だった。車みたいにボタンで押したら家の鍵が開くのだろうか。家用のボタン式の鍵という物があることをわたしは初めて知った。
「ボタン3つあるけど、全部家の鍵を開けるボタンなの?」
そう聞いたら彼女はまた首を横に振る。
「このうちの1つが家のドアを開けるボタンなんだけど、どれか分からないんだよね」
「分からない?……」
「うん。だから1個ずつ押していこうと思うんだ」
平然と答えられて困惑してしまうが、まあ別に全部押したら正解が見つかるのなら問題ないかと思い、尋ねてみる。
「ちなみにこれ他のボタンは何なの?」
「えーっとね、たしか1個はお兄ちゃんの制服のズボンのチャックが開くボタン」
「えぇ……なんでそんな変なボタンが存在してるの……」
困惑しているわたしのことは気にせず、彼女は続きを話していく。
「で、もう1個がこのマンションが爆発するボタン」
「え?爆発?なんで???」
どうしてそんなものを大家さんが彼女に渡したのかはわからないが、そんな選択肢が存在しているのなら絶対押してはいけない。
「じゃあ、まず1個目押すねー」
一番右のボタンを押そうとする彼女を慌てて止めようとする。
「ちょっとダメだって!」
だけど、その声よりも先に彼女がボタンに指を触れさせてしまう、ピッと起動音が鳴り、わたしの顔から血の気が引いて行く。だけど、幸い辺りに何も変化は起きなかった。
とりあえずマンションは無事だったので爆発のボタンではなかったようだ。わたしは一旦安堵のため息をついた。彼女がガチャガチャとドアを開けようとしたけど、ドアが開いている気配もなかった。
「ねえ、もしかしたらそのボタン偽物だったんじゃないの?多分大家さんにからかわれてたんだよ」
思ったことを率直に伝えた。冷静に考えてそんな危険なボタンを大家さんが子どもに渡すわけがない。
「なあんだ。じゃあ鍵開かないんだね」と彼女がガッカリしていると、ちょうどそこに彼女の兄が帰って来た。
「あ、お兄ちゃんおかえりー!鍵開けて―」
と言った彼女の視線の先にいた兄のズボンのチャックが開いていたことからは、わたしは目を逸らした。
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