喉が渇いたからコンビニに行きました
太陽が容赦なく照り付けている。暑くて喉が渇いたのでアイスコーヒーを飲もうと近くのコンビニへと入ることにした。
店に入ると「いらっしゃーせー」と元気な店員さんの声に迎えられる。さっそくレジへと歩き、アイスコーヒーを1つ注文した。すぐに用意してもらえるものだと思っていたのに、店員さんの回答が思っていたものとは違った。
「ああ、すいません、今アイスコーヒー無理なんですよね」
「機械の故障とかですか?」
「いや、もうアイスコーヒーそのものの在庫がないんだよね」
「そうですか……」
コンビニのレジ横のコーヒーがないなんてこともあるのかと少し不思議に思う。ホットフードのショーケースの中にも何も食べ物は入っていないし、もしかしてかなりやる気のない店員なのかもしれない。とはいえ喉は渇いているので、ペットボトル飲料を買おうと思いドリンクの棚へと向かう。
「あれ?……」
棚には確かにペットボトルは置いてあるが、よく見るとどのペットボトルの中にもドリンクは入っていなかった。底の方にほんの数滴分だけ残っていて、どう見ても飲んだ後である。他にも缶ジュースのプルタブは空いているし、カップ飲料にはすでにストローが刺さっていてパック飲料も封が空いている。ためしに数個持ち上げて見ると、中からまったく重みが感じられない。
なんだか不気味なコンビニだと思い、さっさと帰ろうとしたとき、店員がパンコーナーの当たりでウロウロしているのに気が付いた。初めは陳列でもしようとしているのかと思っていたが、どうやら違うようだ。
店員は徐にパンコーナーの上から3段目の棚に手を伸ばし「お、ラッキー。まだ残ってたか」と言ってメロンパンを取り出した。その際すでに中身の入っていない封の空いたパンの袋がバラバラと落ちていた。
手に取ったメロンパンをどうするのかと見守っていると、店員が封を開けた途端吸い込まれるようにして口内にパンが入っていく。メロンパンが瞬時に手元から消えたかと思うと、一瞬口の中がちょうどメロンパンの形にパンパンに膨れた。その姿はまるで人の食事風景とはかけ離れた非現実的なものだった。そのままメロンパンが喉を通る音が聞こえて、後には何も残らない。その動作にはおそらく1秒もかからなかっただろう。
恐る恐る周囲の酒のおつまみのコーナーやカップ麺のコーナーを見ると、どの商品も食べ終わった後の袋やカップだけになっている。まさか店内の食料品を彼が全て平らげてしまったと言うのか……?
そんなことを考えていると、店員がヨダレを垂らしながらこちらを見ていることに気が付いた。
「ねえキミ、何か食べられるものをもっていないかい?」
ただの意味のない質問なのかもしれない。だが、先ほどの質量を無視して吸い込むような店員の食事の仕方を思い出す。食い散らかされたこのコンビニ内のどれほどのものが彼の胃袋の中に入っているのだろうか。もし彼の質量無視の口が、例えば50kg以上のものでも一瞬にして飲み込んでしまうとすれば……。
身の危険を感じて慌てて店を出た。外には先程と変わらない真夏の暑い日差しが待っていた。
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