第20話 命令内容
空を走る光のメンバー全員が、ウィルが言えたのだから自分もできると思い始めた。
リリはじゃあ試しにと、全員が言えるかどうかを聞いてみることにする。
「ウィルはスペードに聞かれたときあの森で、仲間たちを斬ろうとしたのは、自分の意思でやったって言ってたけど本当なの?」
ウィルはリリの方を見てはっきりという。
「違う! あいつにやらされたんだ。あいつに――」
ウィルは口を動かそうとするが、ここで止まってしまうようだ。
そしてあいつに言われたんだと言った。
次にグローを見て聞く。
「グローさんは――」
ここでウィルが何か言ったんだと思ったグローは、さんはつけなくていいと言ってくれる。
他のメンバーも全員、さんはいらないと言ってくる。
リリは分かったと言って、続ける。
「グローはクラブに聞かれたとき、ウィルに頼んだんだって言ってたけど、本当に頼んだの?」
グローはありえないという様子で首を振っている。
「恩人のウィルに頼むわけがない、あいつに前日に――、言われてなければあんなことにはなっていない」
前日の光景を思い出したのか、顔色が悪い。
ナリダの方を見て聞く。
「ナリダはダイアに聞かれたとき、死にたかったからやらせたって言ってたけど、本当に死にたかったの?」
ナリダは怒った様子で勢いよく言い返す。
「ありえないわよ!! 自分で言ってて、本当にむかついて仕方がなかったんだから。――、あいつの特徴も言えないなんて最悪! あー、本当に許せない」
ナリダは全身をじたばたさせている。
ダグの方を見て聞く。
「ダグはジョーカーに聞かれたとき、俺は自分からすすんで町にいられないようなことをした。だから町の事はウィルに任せたんだって言ってたけど、本当に自分から何かしたの?」
ダグは何かを思い出して、不愉快な気分になっているようだ。
「俺があんなことしたいなんて思うわけがない。――、内容は言えないようだが、あいつのせいで守りたかった町が大変なことに」
町の事を思い出して、手を握りしめている。
ルティナの方を見て聞く。
「ルティナはハートに聞かれたとき、ウィルに悪いことをしてしまった。だからウィルにお願いしたって言ってたけど、本当にお願いしたの?」
それを聞いてルティナはウィルの方を見た。
ウィルは絶対にルティナは悪くないよ、というふうに首を振っている。
だから、ルティナは言いたいことが言えた。
「私がウィルにあんなことお願いしたりはしません。あの人に言われてなかったらウィルが私達を――、斬ろうとすることはなかったですし、私がウィルに――、今ウィルがこんな状態になることもなかった」
ルティナはウィルの方を見つめて悲しそうにしている。
リリは全員の話を聞いて、4つの事が言えていないようだと思った。
前日に誰かがウィルに命令した内容。
空を走る光のメンバーが町で何かしてしまったこと。
命令した人物が誰か。
そしてウィルに何が起きているかということ。
リリは今、自分が知っていることから内容を考えてみる。
「空を走る光のみんなが言えなかったことはまず、前日にウィルに命令した内容だね」
全員がリリの方を見ている。
ファーストも一緒に考えている。
「これはたぶん殺せとかそういう感じ、じゃないかな」
空を走る光のメンバーは、口を開けるが何も言えないようだ。
それを見てリリは思ったことを言った。
「支配の内容は言わないように言われてるけど、否定しろとは命令されてないみたい
だね」
「それは言われてないよ」
ウィル以外の全員からも、同じ返答が返ってくる。
リリはファーストに言う。
「内容があってると何も言えなくなるみたいだね」
「その通りみたいです」
ファーストも空を走る光の様子をみて伝えた。
次に言えなかった言葉はと、リリは思い出しながら言う。
「次にみんなが町でやったことなんだけど」
リリが思い出すのは研修で、森の盾のリーダー、ジュールが言っていたことだ。
勇者パーティが町で大切にされている物を壊したと、噂になっていると言っていた。
「グルーク資料館とか、長く続いてる店とかを壊したの?」
全員が苦々しい表情になりながらも、何も言えないようだ。
ファーストがリリに言う。
「これもやらされたことで間違いないようですね」
「犯人を見つけ出す理由が1つ増えたね」
リリはつぶやくように言った。
ウィルは水の中にいるのに、ひんやりとした空気が漂っているように感じた。
リリは深呼吸してから聞く。
「それからみんながあいつって言ってた人についてだけど、命令されたのっていつ頃の話?」
時間帯が分かれば、もしかしたら犯人は分かるかもしれないとリリは思っている。
ウィル、グロー、ナリダ、ダグ、ルティナが言った。
「夜だよ」「夜だった」「夜よ」「夜だ」「夜でした」
リリはファーストの方を向いて嬉しそうに言う。
「これなら問題なく犯人が分かりそうだね」
「はい、あとで彼に聞きましょう」
空を走る光のメンバーは不思議そうに2人を見ている。
それを見てリリはあ、やってしまったと思った。
そして、勝手に監視していたことを謝った方がいいかなとも考える。
でも同時に、ここで謝るとクロにやってもらったことが悪いことだった、みたいになるなとも考えた。
だから、リリは謝ることはやめにして、正直にやったことだけ話すことにした。
「実は昨日の夜、みんなのことをここから1人呼んで追跡してもらったんだ。どこに泊まってるか知りたくて」
リリは全員を見ながらはっきりと言う。
「だから、もしみんなが昨日泊ったところに、ずっと犯人がいたってことじゃなければ犯人を見つけ出せるよ」
それを聞いてウィルが言う。
「僕達はあいつに言われて、――、いつもと違う場所で寝泊まりしてたんだ。いつもあいつは僕達があそこに行ってからやってくるし、僕達で――、僕達が寝る前には帰っていくよ」
「それなら問題なさそうだね」
そして、空を走る光のメンバーに伝える。
「私達もみんなに支配をかけた犯人のこと、探してるんだ。この家にいるみんなに、支配をかけたりしないようにしようと思ってね。それで今のみんなの話のおかげで、犯人を見つけるのは私達でもできそうだよ」
ただ残念なことにと肩を落として続ける。
「あの町にいるのは新人冒険者3人だけ、このままだとたぶん信用が足りなくて捕まえるのが難しそうなんだ」
リリは思う。
こっそりやるなら、いくらでもできる。
でも、彼らもこんな目にあったんだから、やり返して警察的なところに突き出した方が丸く収まるよねと。
「だから、Sランクパーティ、勇者パーティって呼ばれるほどの空を走る光の力と信用を貸してほしい。そして犯人が二度とこんなことができないよう、一緒に捕まえてくれないかな?」
空を走る光はそれを聞いて、ウィルが当たり前だよ、グローがあいつに思い知らしてやる、ダグはやってやろうじゃねえか、ナリダは当然だわ、ルティナもあの人は許せません、と絶対に捕まえてやるという決意に燃えた言葉を言った。
そこで、ルティナが、でもと話し出す。
「ても、このままだと、私達があの人を捕まえるのは難しいんじゃないんでしょうか」
ルティナは支配されたままでは、あの人の言うことを聞いてしまうと心配しているようだ。
リリが何と言おうか迷っていると、ファーストが先に話し出す。
「皆さんが入っている水についてお伝えすることがあります。この水は支配されている状態のままでも、支配のせいでできなかったことが、できるようになる効果がある水なんです。そして浸かっている時間が、長くなればなるほど効果は高くなります」
ファーストは当然の事実のとして言う。
「なので、浸かっている時間が長くなれば、支配を治さなくても皆さんが犯人を捕まえることが可能になります」
ファーストは、いい切った。
誰の目から見ても嘘が混じっているとは思えない、完璧な話し方だった。
リリも、もしかしたらそういう効果もあるかもと検証の必要性を考える。
そして、リリはすぐに正気に戻った。
普通に強制度が減って、できるようになることを伝えたんだねと。
しかし、空を走る光のメンバーは違った。
この水にそんな効果が、と完全に信じたようだ。
リリはファーストにあとで感謝を伝えようと決める。
リリはこれで気になったことの全てだったかを、考えた。
そしてウィルに何が起きているかを、聞いていないことを思い出す。
「最後にみんなに聞きたいんだけど、ウィルだけ犯人になにかされたの?」
それを聞いて空を走る光は何か言いたいようだったが、どうしても言えないらしい。
リリはそれを見て決めた。
ウィルの水槽だけ支配とは関係ない物でも回復系の液体の物、全部入れちゃおうと。
そしてリリは言う。
「もし何か言えそうだったら、すぐに言ってね。こんなことをいうのもあれだけど、ここってちょっと特殊なんだ。だから、外だと絶対に治らないって言われてるようなものも、ここでなら治せるかもしれないよ」
空を走る光は決意したようだ。
絶対に言ってやると、絶対にあいつの思い通りにはさせないと。
そこでリリは全員を見て聞いた。
「それで、言えそうだったら教えてほしい。何かヒントになるようなことはない?」
空を走る光は考えた。
はたして何が言いたいことにつながるだろうと。
そして伝えた。
町で起きた事件について調べてほしいと。
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