第6話『先輩はお茶目さん』
僕はカッと目を見開き、
「失敬な!! ゲームだってするよ!!」
と言ってやった。
「完全に暇人じゃないですか……」
溜息をつく陽菜。いや、本当に忙しいんだって。まだまだクリアしてないゲームも未読の本も色々あるんだって。こう見えても僕は超忙しいんだよ。
「まぁまぁ椿。たまには私も付き合ってあげるからさ。上屋敷先輩の送り迎え、よろしくね」
可愛らしくウィンクしながら僕を諭す薫……ってそうだ!!
「薫だって男じゃないか! 男に送り迎えをさせるって言うんなら薫にも分担させるべきだと主張させてもらう!!」
女の子に夜の遅い時間、送り迎えをさせるのはダメ。それは分かる。正論だし反論も出てこない。でも、それで男が送り迎えをするっていう話なら薫も負担を負うべきだ!!
そんな完璧な理論を持って反論したのだが、
「へ? いやいや、先輩。考えてみてくださいよ。女の子が夜遅く歩いていたら危ない。これは変態男に襲われるかもしれないっていう危険があるからっていうのは分かりますよね?」
「もちろん。スケベ太郎みたいなのが居るからって事だよね」
当然だ。
だけど、なんで今更そんな事を確認してくるんだろう?
「じゃあ聞きますけど先輩……薫先輩がそういう人たちに襲われないなんて言いきれます?」
「ごめん。僕が全面的に間違っていたよ」
反論の余地が完全になくなってしまったので素直に謝る。
そうだった……薫は男だけど、そんじょそこらの美少女より可愛い男だった……。
そんな薫が夜遅く歩くなんて、発情期の雄猫のど真ん中に雌猫を投げ込むようなものだろう。
――というわけで、
「はい、それじゃあ決まり。もう自己紹介やらなんやらで遅くなっちゃったし今日は解散にしよっか?」
そんな薫の提案に全員(スケベ太郎は地面にのの字を書いていて聞いていない)は頷く。
「それじゃあ椿部長。締めの言葉をどうぞ!」
「え!? なにそれ!? 聞いてないんだけど」
「部活動で締めの言葉は必須でしょ? ほらほら、早くしないとみんな帰れないよ?」
「そんないきなり言われても……」
頭を働かせる僕。
締めの言葉……締めの言葉……部活動の締めの言葉は……。
「ほ、本日の青春部、終了! お疲れさまでしたー」
「お疲れさまでーす」
「……お疲れ」
「お疲れ様」
「……(イジイジ)」
「お疲れ~」
こうして本日の青春部の活動は終わりを迎えた。
……締めの言葉かぁ……。明日からの物を事前に考えなきゃ。さっきの締めの言葉を使いまわしていたらどこかに怒られそうだし……。
☆ ☆ ☆
という訳で。
とても不本意だけど、上屋敷先輩を家まで送る事になった。なんで僕が上級生の引率みたいなことをしなくちゃいけないんだろう。
まぁ決まった事をぐちぐち言っていても仕方ない。
幸い、上屋敷先輩の家は学校からそう遠くないみたいだ。薫から聞いた住所をスマホのナビで調べてみると、徒歩十分くらいの所にあった。僕の家から完全に逆方向だけど、まぁ十分程度なら問題ないだろう。
現在は学校の下駄箱前。
靴を履き替えて……よし。
「さて、帰りましょうか、上屋敷先輩……っていないぃぃ!?」
先ほどまで下駄箱前に居たはずの上屋敷先輩の姿が忽然と消えていた。
他の下駄箱の辺りを見てみても上屋敷先輩は見つからない。
なぜ!? 神隠しかなにか!?
初っ端からいきなりつまずいてしまう僕のエスコート。
こんな事では初デートだって満足にこなすことは出来ないだろう。赤点じゃないか。
「――なんて考えてる場合じゃないだろ僕! 上屋敷せんぱーい! 一体どこに……」
とりあえず校舎の中を探そうと靴を履き替えようとする僕。
しかし、
「君、もしかして上屋敷さんを探してるの?」
「ほ?」
見知らぬ女子生徒に呼び止められる。
上屋敷先輩を知っている様子だし、たぶん先輩かな?
「えーと、はい。上屋敷先輩、さっきまですぐ傍にいたんですけど見失っちゃって……」
僕がそう言うと先輩は指を外に向け、こう仰られた。
「上屋敷さんなら、なんか『ちょうちょ~』とか言いながら蝶を追いかけていったよ?」
「は?」
いやいや、まさかそんな馬鹿な。御冗談を。
いくらなんでも高校三年生にもなって蝶を追うなんて馬鹿みたいなことをする女の子が居るわけが……。
などと思いながらも先輩が指さした方向を見ると、そこには確かに空を見上げながらふらふらと走っている上屋敷先輩らしき姿が……。
……マジかおい。
「…………………………」
「あの……君、大丈夫?」
「――あの……」
「え? なんて?」
先輩が何か言っているみたいだったが、僕にはよく聞こえなかった。というよりそれどころじゃなかった。
「あんの……頭お花畑先輩がぁぁぁぁぁぁぁ!! 待てぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」
今は……あの頭がパーでパーな先輩の手綱を握る事が先決だ!!
「唸れ! 僕の黄金の脚! せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
周りの目も気にせず、上屋敷先輩を追いかける。
そうして後に残された女子生徒。
彼女は外に向かって走る椿たちを見つめながら、
「お友達……居たんだ。上屋敷さんって」
と、小さく呟いた。
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