第114話

 私は苦笑いを浮かべて美人店員さんのことを見た。まさか、初対面の人に見抜かれるなんて。


「実は、仕事を辞めようかなって思ってたんです」


☆☆☆


 そう言った彼女の目は人生に疲れ切った目をしていた。まだ、若いのに。二十代くらいだろう。まだ、青さ漂う新卒って感じがした。一体、彼女に何があったのだろうか。

 

「よかったら、話聞かせてくれない?」


 こういった目をした人を今まで何人も見てきた。そして、そんな人たちを翼のスイーツ救ってきた。

私が翼のスイーツを食べて幸せを感じるように、その幸せを他の人にも分けてあげたいと思った。だから、翼とお店のコンセプトを話し合ってる時に私が提案した。


「疲れてる人に翼のスイーツを食べてもらって幸せを届けれるようなお店がいいと思わない?」

「そりゃあ、それができるなら一番だけどさ・・・・・・」

「できないと思ってるの?」

「・・・・・・うん」

「できるよ。翼なら。私が保証する!」


 私は胸を張って言い切った。

 だって、私自身が翼のスイーツを食べて幸せを感じてるんだもん。他の人が翼のスイーツを食べて幸せに思わないはずがない。

 私以外にも、お母さんやお姉ちゃん。愛理や七海。常連さんのマダム。いろんな人が翼のスイーツを食べて幸せそうにしてた。

 だから、きっと大丈夫。


「だって、こんなに幸せなんだもん。私!」

「あはは、なにそれ。でも、陽彩に言われるとできてしまう気がするよ」

「気がするじゃなくて、翼のスイーツは人を幸せにすることができるんだって!」


 なんてことがあって、私たちはお店を開業した。名前はお店の開業の一年前に生まれた娘の「沙夜さよ」の名前から一文字取って『夜』にした。

 あれから、五年。いろんなことがあった。その話はまたおいおい話すとして、今は彼女のことだ。


「何があったの?」


 私は彼女のことを見つめた。

 すると、彼女が、ふっ、と笑って話し始めた。


「別に大したことじゃないんです。ただ、ちょっと仕事に疲れてしまっただけで、ほら、よくあるじゃないですか。入ったはいいもののなんか違うなって」

「そっか」

「はい。毎日残業続きで、ほんと、疲れてたんです。そんな時に、こちらのお店をネットで見つけて、あの変な・・・・・・て言ったら失礼ですね」

「変でいいわよ。実際、変だし」


 私は、あはは、と笑った。


「あの言葉、私が考えたの」

「え!? そうだったんですか。すみません」

「いいのよ。で、どうだった? 夫のスイーツ食べてみて、元気出た?」

「はい。もう、何もかも初めてで、なんだかいろんなことが吹き飛びました。ちゃんと幸せ届きました」

「よかったー」


 私はホッとした。 

 さっきまで、人生に疲れ切ったみたい目をしていた彼女の目はキラキラと息を吹き返したみたいに輝いていた。

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