第76話

 トマトのミートパスタを食べ終えたところで、陽彩のお母さんが『蓮』にやってきた。


「あ、お母さん。お仕事終わったの?」

「陽彩、ごめんね~」

 

 彩のもとに陽彩が駆け寄る。彩が俺の方を見た。


「翼君、ごめんね」

「いえいえ、お仕事お疲れ様です」

「ありがと。それで、翼君のお母さんは?」

「今、昼食を食べ終わったところなので、キッチンにいますね」


 なので、俺はさっきまで座っていた彩をテーブル席に案内した。

 初めて『蓮』に訪れたであろう彩は店内をキョロキョロと見渡していた。


「いいお店ね」


 それだけ呟くと彩は満足したように頷いた。


「いいお店だよね」


 それを見た陽彩もそう呟いた。

 自分の両親のお店が褒められるのは嬉しいな。

 そう思ったところでキッチンから朝美が出てきた。


「あ! やっぱり! 陽彩ちゃんの名字が神宮司って聞いた時からそうじゃないかとは思ってたのよ!」


 なぜか、朝美はテンション高く俺たちのテーブルのもとへやってきた。

 そんなことよりも、今なんて言った!?

 もしかして、朝美は陽彩のお母さんのことを知ってるのか?


「久しぶりね。朝美!」

「もう~。もっと早く来てくれてもよかったのに~!」


 そう言って、朝美は彩に抱き着いた。

 そんな行動にも慣れてるのか、彩は朝美の行動を冷静に受け止めていた。

 俺は陽彩と目線を交わした。 

 これは一体どういう状況?

 そんなことを思っていたら、後ろから蓮夜がやってきて説明してくれた。


「そういえば、言ってなかったな。二人は高校の時の親友なんだ」

「「え……」」


 俺と陽彩はもう一度目線を交わした。

 二人ともこんなことってあるのかよっていう目をしていた。


「ごめんね。仕事が忙しくて来れなかったのよ」

「それなら、しょうがないわね」

「それにしても、いいお店ね」

「ありがと。蓮夜さん、ほらこっちに来て!」

「久しぶりだね。神宮司さん」

「久しぶり。獅戸くん」


 どうやら蓮夜と彩も面識があるらしい。 

 二人とも笑顔で挨拶を交わしていた。


「なあ、これってもう顔合わせする意味なくない?」

「そうだね……」

「二人とも、というか三人とも面識あるみたいだし」

「信じられないんだけど……」

「俺も信じれないよ」


 でも、あの楽しそうに話してる三人を見ると事実なんだろうなって思った。

 そんなこんなで、俺の両親と陽彩のお母さんの顔合わせが幕を開けたのであった。




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