第59話
『蓮』のバイトを終えて、俺たちはクレープの生地作りに励んでいた。
「難しい~」
「なんだ。こんなこともできないのか」
陽彩が難しそうにやっていることを俺は何でもないように作って見せた。すると、陽彩は悔しそうに俺の背中をポカポカと叩いた。
「当たり前でしょ! 初めて作るんだから!」
「なぁ、陽彩。なんで俺を推薦したんだ。俺が目立ちたくないのは知ってるだろ?」
「知ってるよ」
「じゃあ、なんで?」
「だって、高校最後の文化祭なんだよ。楽しまないと!」
「そんな理由で……」
「そんな理由って、大事だよ! 翼と一緒に文化祭できるの最後かもしれないんだら!」
陽彩は真剣なまなざしで俺のことを見つめてきた。
「それに、翼がクレープを作ってくれたら優勝できそうじゃん」
「陽彩。もしかして、そっちが本音か?」
「そ、そんなことないよ」
陽彩の目はキョロキョロと泳いでいた。
「陽彩ー。どっちが本音か言ってみろ?」
「そ、それは、両方に決まってるでしょ!」
「よし、俺は教えるのやめる」
「待ってよー。優勝できなくなっちゃうじゃんー」
「冗談だ。ちゃんと教えるから」
「もうっ! 意地悪しないでよ」
「このくらいはいいだろ。俺を勝手に巻き込んだんだから」
そう言って、俺は陽彩の頭を撫でた。真っ黒な綺麗な瞳が潤いを帯びて俺のことを見ている。その顔にはごめんと書いてあるような気がした。
「別に嫌ってわけじゃないんだ。だから、そんなするな」
「怒ってない?」
「怒ってないよ。もう、開き直って楽しもうかなって思ってるくらいだ」
「ほんと?」
「ああ、当日は楽しませてくれるんだろ?」
「それは、私が保証する! いろんな思いで作ろうね!」
「楽しみにしてるよ。さて、もう少し作るか」
「頑張る!」
それから俺たちは遅くならない程度にクレープ作りに精進した。その結果、陽彩はそこそこのクレープ生地を作れるようになった。
「今日はこの辺にしとこう。もう、遅いし」
「うん。わかった。そうだ、明日はあの二人も連れてきていい?」
「いいけど、営業中はできないぞ」
「そっか。じゃあ、私の家でやらない?」
「え……」
「明日は、土曜日で休みだし。ダメ?」
「陽彩がいいなら俺は大丈夫だけど……」
「じゃあ、決まりね! 『蓮』の手伝いが始まるまで練習しよう」
「了解。そのつもりでいるよ」
「ありがとう。先生」
陽彩がニコッと微笑む。
最後の文化祭か……。
俺は二年間、空気でいたからもちろん文化祭に積極的に参加することはなかった。そんな俺が、なぜか今年は中心のメンバーにいる。
すべては横で微笑んでる陽彩のせいなんだけどな。これが他の生徒だったら、俺は手伝うことはしなかっただろう。
陽彩は俺の彼女で大切な人。だから俺は陽彩のために協力することにした。その選択がどんな結果になるのかはわからない。だけど、陽彩と過ごす時間は楽しいということだけは分かる。
最後の文化祭。楽しくなるといいな。と俺はひそかに思っているのであった。
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