第48話

 マダムから温泉旅館のチケットをもらった二日後、夏休み明けテストの結果が廊下に張り出された。順位は一位から二十位まで張り出される。

 俺と陽彩は一緒に登校をして、結果を一緒に見る約束をしていた。


「心の準備はいいか?」

「う、うん」

「じゃあ、見るか」


 一斉に二人でテストの結果を下から順に見ていった。

 二人の名前は二十位から十位までの間にはなかった。


「どっちが勝っても恨みっこなしだからな」

「うん」


 さらに十位から上を見にていく。

 どっちが勝っても恨みっこなし。正直、俺が勝っても陽彩にしてもらいたいことは間のところ思いついていなかった。もしも、陽彩が勝ったら、俺にどんなことを言うのだろうか。そう思って、俺は陽彩の横顔を見た。その真剣なまなざしがどんどんと、輝いていくのが分かった。

 ああ、これは負けたか。


「どうだった?」

「自分で見てみれば?」


 陽彩が分かりやすく嬉しそうに笑っている。俺はテスト結果に視線を戻した。

 二位 獅戸 翼

 一位 神宮司 陽彩

 そう書いてあった。

 

「おめでとう。俺の負けだ」

「みたか! 私の勝ち!」


 陽彩は俺に向かってVサインをして、はにかんだ。

 勝負に負けたのはもちろん悔しいが、それ以上に陽彩のこの笑顔を見ることができて俺は嬉しかった。


「さて、獅戸君! 私が勝ったってことで言うことを一つ聞いてもらうからね」

「分かってるよ。で、俺は何をすればいいんだ?」

「それはね~。今は秘密! 温泉旅館に行ったときに言うね」

「また、秘密か。分かったよ。覚悟しとく」

「うん。覚悟しといてね!」


 陽彩は妖艶に微笑むと俺に向かってウインクをした。これは、本当に覚悟をしとかないといけないかもしれないな。


 テスト結果を見た俺たちは教室に入った。


「ひーちゃん。おはよ~。一位おめでとう!」

「ありがとう。愛理」

「陽彩。さすがね。有言実行して見せるなんて」


 教室に入ると、陽彩はすぐに雛形と有川に囲まれた。それ以外にもたくさんのクラスメイトから賞賛の言葉を浴びていた。


「自信があったんじゃなかったしら?」

「どっちが勝つか分からないって言ったよね」

「まあ、今回は陽彩が頑張ったってところね」

「そうだな」


 一位を取ってあんなに嬉しそうな顔をしている陽彩を見ていると、なんだか幸せな気持ちになった。

 

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