第35話 【決意のクレームダンジュ】
夏休みが始まった。
早朝、俺は電車に乗って空港に向かうために駅にやってきていた。
「翼ちゃん。忘れ物はない?」
「大丈夫だよ」
「ちゃんと向こうに着いたら連絡するのよ」
「分かってるって」
心配性の朝美が口うるさく言ってくる。そんな母親とは対照的に蓮夜は一言しか言わなかった。
「頑張れ」
「ありがと」
たったその一言にいろんな意味が込められていることを俺は知っている。小さなころから蓮夜の背中を追って、一緒に何度もスイーツ作りを繰り返してきた。何度も失敗を繰り返してうまくなっていく俺の姿を蓮夜は見ている。
そんな父親だからこそ、それ以外なにも言わないのだろう。だから、俺もそれ以外何も言わない。
「翼・・・・・・」
「陽彩。来てくれてありがと」
「うん。頑張て来てね。気を付けて」
「お店のことは任せた」
陽彩は任せて、と胸を拳でトンっとした。
電車の笛が鳴った。
「それじゃあ、行ってくる」
俺が電車に乗り込むとと同時に電車が出発した。
三人は電車が見えなくなるまで駅のホームで手を振ってくれていた。
「どんな二週間になるのか……」
正直、心配の気持ちの方が大きい。どんなことが待っているのか全く想像ができていなかった。でも、楽しみの気持ちもある。俺がまだ知らないスイーツに出会える時はいつもワクワクと胸が躍る。
俺の気持ちを乗せて電車は空港へと向かう。
夢を追うことは冒険することだ。まだ進んだことのない鞭を切り開いて、自分だけの一枚の道標を作りあげていく作業。その過程でいろんな試練が襲い掛かってくるだろう。その試練を乗り越えるのか、回り道をして別の道を選ぶのか、どっちを選んだとしても、それはそれで、夢の道標になる。
俺は窓の外を眺めながら、将来のことを考えていた。
「いつか一緒にお店をできたらいいな……」
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