第31話
一週間はあっという間に過ぎて、前期の終業式が終わった。
明日から、いよいよ俺はあのお店での修業が始まる。でも、その前に陽彩とのデートが待っていた。
午前で帰宅となった俺たちは一旦、自分の家に帰って私服に着替えて再集合することになった。
待ち合わせ場所は陽彩がいつも使っている最寄り駅だった。
「お待たせ~」
私服姿の陽彩が手を振りながらこっちに向かって来ていた。
白色の清楚なワンピースを着ていて、肩から黒のショルダーバックを提げていて、珍しく、ヒールを履いていた。
その姿は、いつも見ている私服姿とは違ってなんだかとても大人っぽく見えた。
「待った?」
「いや、今来たところ」
「それじゃあ、早速行こうか。時間がもったいない」
「そうだな。初めはどこに行くんだ?」
「それは行ってからのお楽しみ」
陽彩は色っぽく笑うとコツコツと音を立てながら歩き出した。俺もその後を追うように陽彩の隣に並んで目的地に向かった。
まず、陽彩が俺を連れて行ったのはゲームセンターだった。
「なんで、ゲーセン?」
「それは、もちろんこれをするためだよー」
そう言って、陽彩は迷わずプリクラ機のところまで歩いていった。
「プリクラ撮ったことある?」
「あるわけないだろ」
三年間空気を演じていた俺に友達はいないので、もちろんプリクラなんて初めての体験だった。そもそも、男友達がいても、男だけでプリクラを撮ることはなかっただろう。
「じゃあ、初体験なんだ!」
「そうだな……」
「なんか、嬉しいな~」
俺は隣にいる楽しそうな陽彩の横顔を見てドキッとした。
陽彩がお金を入れて撮影が開始された。
「ほら、翼もポーズしてよ~」
「こ、こうか?」
俺は陽彩がしているポーズと同じポーズをして、カメラを見た。
恥ずかしすぎる。こんなポーズ(顎に右手でピースを作って当てている。小顔ポーズ)をしているのもだが、陽彩と一緒にプリクラを撮っているこの状況が恥ずかしい。
「次で最後か~。どんなポーズにしようかな~」
「最後は普通に撮らないか? せっかくの記念だし」
「そうだね。最後は普通に撮ろうか」
そのはずだったのに、陽彩が俺の腕に自分の腕を絡めてきてくっついてきた。
パシャ。
その瞬間、カメラのシャッター音が鳴った。
「驚いてる翼の顔いいね~」
「撮り直しはできないのか?」
「無理だよ~。いいしゃん、いい写真だよ」
そんなに眩しい笑顔で言われたら、それ以上何も言えなかった。
その後は、陽彩がなにやら、写真に書き込みをいれていたが、俺はそれを見ているだけだった。
プリクラが印刷されて、陽彩がハサミで二つに分けてくれた。
「はい。翼の分」
「ありがと」
「どれも、いい写真だね」
「そうだな」
そのプリクラに写っている俺たちはどれも最高の笑顔でキラキラと輝いていた。
このハートとLOVEの文字が気になったが、何も聞かないことにした。
俺はそのプリクラを大事に自分の財布の中に入れた。
「じゃあ、次のところに行こうか」
「そうだな」
俺たちはゲームセンターを後にして、次の目的地へと向かうのであった。
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