第19話

 『蓮』でバイトを始めて三日が経過した。

 今日はお休みをもらって、七海と愛理と一緒にショッピングモールに買い物にやってきていた。

 ちなみに『蓮』というのは翼のお父さん。蓮夜さんのお店だった。


「ひーちゃん。三日ぶりだね~」

「だね~」

「今日は楽しも~」


 愛理はいつものようにテンションが高い。

 それに比べて七海はいつも冷静だ。


「はいはい。愛理はもう少し静かにしようね」

「むぅ~。分かったよ~」


 露骨に落ち込む愛理。でも、顔は楽しそうだ。

 七海もなんだかんだ言って楽しそうにしている。私ももちろん楽しみだった。


「行こうか」


 私がそう言って、三人でいろんなお店を見て回ることにした。

 特に何か目的があるというわけではなくいろんなお店を適当に回った。本屋さんにアクセサリーショップに服屋さん。

 いろんなお店を回ったけど、結局、フードコートに座って、三人で話をしている時間が一番楽しかったりする。


「さて、ひーちゃん。話を聞かせてもらおうか」


 愛理は悪代官みたいな笑顔を浮かべて言った。


「そうね。私も気になるわ。バイトの話」


 七海も右に同じく、同じ顔をしている。この二人にはゴールデンウィーク中にバイトをすることは話してある。ただし、お店のことは伝えてない。


「まあ、楽しいよ。お店の人も優しいし」

「へぇ~。私もバイトしたいな~」

「夏休みにでもいたらいいじゃん」

「やろうかな~」


 真剣に考える愛理。


「て、そんなことはどうでもよくて、つーちゃんは元気?」

「な、なんでそんなこと私に聞くの?」

「だって、毎日会ってるんでしょ?」

「……」


 愛理がいたずらっ子な微笑みを浮かべていた。

 どうしてそれを知ってるんですかね。この子は。私は誰にも言ってないのに。


「私は何でも知ってるのだ~」

「獅戸君から無理やり聞き出したの間違いでしょ」

「そうとも言う~」

「どういうこと?」

「愛理のいつもの悪い癖。陽彩のすきを見て、この子が獅戸君からゴールデンウィークに陽彩と会う予定は無いのってしつこく聞いて、彼の口から無理やり聞き出してた」


 翼の戸惑っている顔が目に浮かぶ。愛理の問い詰めに耐えれるのは七海くらいじゃないだろうか。私も愛理に問い詰められたらなんでも白状してしまうから。

 そういうことなら、しょうがない。この二人に知られてるなら隠す必要もないよね。


「まあ、元気だよ」

「そっか、そっか」

「いろいろと助けてもらってるし……」

「ふ~ん。その話を詳しく聞かせてもらいましょうか」

「べ、別に何も怪しいことはしてないわよ!」

「こら、愛理。また陽彩をからかってるでしょ」

「え、そうなの?」

「バレたか~」


 愛理は愉快そうに笑った。

 そんなくだらない会話を私たちは長々と昼食を食べながらしていた。


「なんだかんだ、獅戸君との距離を縮めてるみたいね」

「そうだといいんだけどね」

「きっと、あなたの恋は叶うわよ」

「だと嬉しいな」


 恋が叶う瞬間はいつだって突然だ。何かのきっかけで、恋が叶うことがあれば、何かのすれ違いで恋が終わってしまうことがある。

 恋は人生と共に歩んでいくものだ。何度も繰り返すかもしれない。もしかしたら、たった一人の人を生涯愛し続けるかもしれない。

 今はただ、この翼との時間が続けばいいなと思っている。いつか、二人の関係が変化するその日まで。

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