第8話 【蓮夜特製 生クリームたっぷりパウンドケーキ】

 教室に戻ると、クラスのマスコット的存在の雛形が話しかけてきた。大きな瞳が興味津々といった風にキラキラと輝いていた。


「つ~くん。どこ行ってたの~?」

「え~っと」


 俺がどう答えようか困っているとクラス委員の有川がやってきて援護をしてくれた。


「こら、愛理。獅戸君が困ってるでしょ。あんまり、人のテリトリーに突っ込んじゃダメって言ったでしょ」

「そうだった! ごめんね。つーくん」

 

 雛形は顔の前で手を合わせてかわいらしく謝る。

 こういう素直で相手に警戒心ところがいろんな生徒と仲良くなれるコツなんだろうな。雛形は男女問わず仲がよかった。

 ただ、あまりにも警戒心が無さ過ぎて、人の心に土足で踏み入れてしまうようだ。それをセーブするのが有川の役目らしい。


「ごめんね。獅戸君」

「いえ、大丈夫です」


 俺はそう言って、それ以上二人に関わらないように自分の席に戻った。あくまでも教室内での俺は空気だ。それをちゃんと演じないと。そう思っていたのに、今はそれを脅かそうとしてくる存在がクラス内にいる。あの二人ではない。さっきから俺に視線を向けている陽彩だ。

 どうして俺のことを見てくるんだ……。俺はさっきの屋上での出来事を思い出して、その視線から逃れたくなった。なので、俺は昼休憩が終わるまで机に顔を伏せた。


 授業が始まっても陽彩は熱い視線を送ってきた。

 一体何なんだ!?

 わけがわからん。もしかして、さっき俺が二の腕を触ったから怒ってるとか? 

 そりゃあ、ほんとに触るとは思ってなかったかもしれないけど。自分で触ってもいいって言ったじゃないか。なのに、怒られるのは理不尽だ。


 結局、陽彩からの熱い視線は放課後になって帰路についても向けられることになった。もしかして、このまま家までついてくる気じゃないよな。

 俺は、少し遠回りをして帰ることをした。俺がと回り先として選んだのは、家からそれほど離れていない公園だった。

 そこはブランコと滑り台しかない小さな公園だった。俺はブランコに乗って、チラッと公園の入り口を見た。そこには隠れているつもりで、モロ見えしている陽彩の姿があった。


「はぁ~。神宮司さん出てきたらどうです? いるの分かってますよ」

「なっ……」


 それでよく気づかれてないと思ったものだ。そもそも、公園の入り口に隠れれるような場所なんてどこにもない。


「き、奇遇だね。こんなとこで会うなんて」

「そうですね」

 

 陽彩はあくまでもとぼけるつもりらしい。


「それで、なんで後をつけてきたの?」

「え……。後なんてつけてないよ……」

「とぼけるんだ。まあ、いいけど。そんなことされるとスイーツあげたく無くるかも」

「ごめんなさい。後をつけました」


 スイーツのことを出すと、陽彩はすぐに非を認めた。

 そして、ブランコに乗った。


「で、なんで後をつけてきたんだ?」

「う~ん。なんでだろう」

「はぁ~。意味もなく後をつけてきたのか?」

「気づいたら、後をつけてた」


 意味わからん。陽彩の行動が全く意味わからん。

 どうしてそんなことをしたんだ。俺の頭にははてなマークが浮かんでいた。


「翼ともう少し話したかったのかも……」

「それは、なんというか……」


 こんな美少女にそう言われるのは嬉しいけど、その言葉を俺はどう受け止めればいいのか分からなかった。

 そして、俺はなぜだか分からないがボソッとそう呟いた。


「家に来るか?」

「えっ……」

「べ、べつに深い意味はないぞ。両親もいるし」

「うん」

「ほら、スイーツ持って行くって約束したのに、持っていけなかったから。その、お詫びに、と思ってだな」

「そんなに、慌てなくてもよくない? 翼、面白すぎ」


 陽彩が腹を抱えて笑った。

 ひょいっとブランコから飛び降りて、こっちを見た。

 赤色の綺麗な髪の毛が風で揺れてなびいていた。


「じゃあ、連れて行ってもらおうかな~。翼の家」

「お、おう」

 

 なぜか、さっそった俺の方が今更恥ずかしくなった。

 俺たちは公園からそう遠くない俺の家に向かった。

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