60 守りたい、本当の意味で貴女を②
「凰和様、ごめんなさい。こんな無知で未熟な随身でがっかりしましたよね。お祭りも嫌でしたよね」
友仁のかたわらにひざをついた凰和は、力なく投げ出された小さな手を握り締めてなにも言わなかった。義一は中止になりかけた祭りに火を灯した凰和の姿を思い出していた。
随身の友仁と神社を守ってきた地域住人に感謝を述べたいと言っていた。だけどまだあどけない少女の心に、声にできない思いが潜んでいたことを今になって知り、打ちのめされる。コルク銃の弾がひとつひとつなくなっていく時も、夜空に大輪の花火がひゅるひゅる散っていく時も、彼女の耳には刻々と減る自らの命のカウントダウンが聞こえていたのか。
「ジョージ電力があるからお役目を果たさなくていいかもなんて、気楽なこと言って。俺は本当にバカでした。ごめんなさい。凰和様ごめんなさい!」
握られた手にすがりつき肩を震わせる友仁を凰和はやさしく背を叩いてあやした。友仁を見つめる目には母のような慈しみと、義一をハッとさせるほどの寂しさが湛えられていた。
「ごめんね、友仁。私もすごく複雑なの。だけど友仁に救われたこともあったよ」
「そんなっ、無理に言わなくても!」
やさしさを突っぱねる言葉とは裏腹にいっそう手を握り締める友仁に向けて、凰和は苦笑を浮かべた。
「本当だよ。だって友仁は私を生者として見てくれた。少しの希望を見せてくれた。だから私気づいたらなんだか普通に楽しんでる瞬間があって。すごくいい思い出が作れたよ」
友仁の手の中にある凰和の手にはもう力が入っていなかった。それがゆるやかな拒絶と知って友仁は首を横に振る。だが噛み締めた唇が、生きていてと言うことはどうしてもできなかった。三〇〇年近く巫女を守りつづけてきた先代随身の思いと歴史が、小さな手足に絡みついているようだった。
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