35 花火とおもちゃの指輪③

 ふと、凰和が隣でゴソゴソやっていると思ったらおもちゃつきのお菓子の箱を開けていた。姉妹にはふたつあればこと足りるところを、ひとつ余分に選んでいたなと思ったが自分用だったらしい。凰和の手のひらに転がり落ちてきたビニール袋の中身をつい義一もいっしょになって覗き込んだ。

 凰和が小さく息を呑む。義一が見る限りそれはなんの変哲もない赤いプラスチックの石がはめ込まれたおもちゃの指輪だった。

 だがビニール袋から指輪を取り出してしげしげと眺める凰和を見ているうちに、義一は今朝の夢を思い出していた。夢なんかないと凰和は言った。なにかを望むことすらおこがましいとも。だけど彼女は目覚めたばかりの自分になんと言った?

 気づけば義一は凰和の肩を掴んで振り向かせていた。


「お前の夢はなに」


 とたん、凰和は手のひらの中にサッと指輪を隠し、顔をくしゃりと歪めた。


「すみません。バカみたいですよね、こんなおもちゃなのに……。私には、似合わないものなのに」

「凰和!」


 肩を揺さぶり、義一はそうじゃないと叫ぼうとしていた自分にハッとした。大声に振り向いた友仁が驚いた顔をしていた。

 凰和に夢を語らせてなんになる。おもちゃでも指輪を欲しがる少女に自分は応えてやるだけの度胸も資格もない。間違っていたんだ、最初からすべて。引き止められたからといって清い凰和のそばに、生まれ落ちた時から瘴気に汚れきっていた自分がいるべきではなかった。


「……そうだな。大バカ者だよ。俺も。俺を選んだお前も」


 義一は誰の顔も見ずに丸太のベンチを跨いで森の窓に背を向けた。ドンッと打ち上がる花火の音に混じって友仁の声が追いかけてきたが、今度は凰和は引き止めに来なかった。二歩、三歩といつになく歩みを意識していた義一はまだどこかで期待していたのかもしれない。

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