29 射的③

 コルク銃を持つ手つきも危なっかしく凰和は驚きながらもうれしそうな声を上げた。こりゃ構え方から教えてやらねば、と思いつつ義一は店主に有り金をすべて渡してコルク銃を受け取った。


「ま、保険だよ。おじょうちゃんだけじゃいささか不安なんでね」

「俺いつも射的やってますから。任せてください!」


 義一と競うように二〇〇円を台に叩きつけて、友仁は顔なじみらしい店主に弾を催促した。その無邪気な表情の隙間からちらと義一を見上げた時だけひやりとした風が吹く。

 いいだろう。義一は無言の挑戦状を受け取った。こちらとて仕事のうっぷんはゲームセンターのシューティングゲームで妖怪を撃って晴らしてきた。その腕を見せつけてやる時がきたようだ。

 その前に、と義一は弾と銃を見比べて途方に暮れる凰和に顔を向けた。


「弾を込める時はまずここのレバーが上がってることを確認して、弾を銃口に押し込む。これだけだ。あとは台に腹這いになるように低く構える。そうすると安定して狙いやすい」


 弾を込める流れから構えまでをやってみせて、義一は銃を凰和に返した。凰和は言われた通り台に腹這いとなったのだが、少々素直過ぎた。的より低くなっている。

 義一は苦笑を噛みながら凰和の肩を掴んで身を起こさせた。「脇を締めて」と脇をつつく。くすぐったかったのかそちらに気を取られている凰和のあごに手を添えて正面を向かせ、銃身の先端にある照星しょうせいを見るようにと注意した。


「あとは狙いだけど、この場合は真ん中より上を狙ったほうが倒れやすい。何度か撃ちながら微調整して――って聞いてる?」


 さっきから返事をしない凰和を訝しんで顔を覗き込むと、弾かれるように身を起こして距離を取られた。「わかりました」と震えた声にはいまいち信憑性しんぴょうせいがなかったが、義一はぽりぽりと米神を掻いてまあいいかと流した。

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