第33話 木津シヤの力
行方不明の人達は皆、その直前に大きな変化があった。
変化が起こるには、何かしらの本人の変わろうとする強い思いがあったはずだ。
つぐみは品子達へと説明を続ける。
沙十美はあの時、とても強い思いを持っていた。
今の自分ではなく、憧れの人の傍にいられるように変わりたいと。
恐らくそれは『
特定の感情を強く持った人間しか見えない、場所や扉があったとしたら。
このつぐみの意見に、品子は「ふむ」と呟く。
「限られた条件の人物のみが気付く扉かぁ。見つけにくいはずだよねぇ」
「あくまで推測ですが……」
つぐみの言葉に、品子はうなずきながら答える。
「いやいや、やはり目線が変わるって大事だね。その方向性は間違ってないと思う」
「先生の方では、何かお店を見つける方法はありそうですか?」
「ん~、とりあえずは隠されているという前提が出来たからね。こっちの
「解析組、ですか?」
「うん、そう。この資料とか作った人達ね。リーダーが使えない人だから、メンバーが大変そうでねぇ」
「な、なんだか容赦ない感じですね」
容赦のない言い方に、つぐみは思わずヒイラギの方を見た。
あまり表情を変えず、彼は品子を眺めている。
彼を対応を見る限り、いつもその人に対して品子はこういった態度をとっているのだろう。
何だか場の空気を変えた方がいい。
そう考えたつぐみは、何か新しい話題をと頭を働かせていく。
自分で言ってみたものの、力を使ってものを見えなくするのはすごい能力だ。
見えるものを、見えなくする。
では見えないものを、見えるようにする力もあるのだろうか。
ならば品子が昨日の自分の行動のことを、知っていたのは……。
その気付きをつぐみは尋ねてみる。
「そういえば先生。どうやって私の昨日の家での様子を、知ることが出来たのですか? 先程の力の反対で、見えないものを見えるようにする力とかですか?」
「あ~、あれはシヤの力だよ。遠くにいても、対象者の声が聴きとれるんだ。ちなみに発動しなくても、数十メートル以内の人の会話ならシヤは聞き取れるよ。すごいでしょ」
まるで自分のことのように、品子は嬉しそうに語っている。
「す、数十メートルですか。すごい」
「発動した場合は……。そうだねぇ。ここの戸世市内位ならば、いけるんじゃないかなぁ?」
つぐみは思わず手元のスマホで、戸世市の大きさを検索してしまう。
「ひゃ、百㎢あるって書いてありますが」
「うん、それくらいなら平気。でもシヤの力って、なかなか発動条件が厳しくてね。対象者に一度、直接に触れてないといけないとか。一度に一人しか聞き取ることが出来ないとか。ほら。シヤと会った時、静電気みたいな痛み感じなかった?」
「あ、確かに!」
シヤからの手当の時に、感じた痛みをつぐみは思い出す。
「言っとくけどさ。当初の俺達の目的は、次の行方不明者になると思われていた、あんたのお友達の千堂沙十美。それなのになぜかあんたが登場してきて、こちらは相当に混乱したんだぜ」
ヒイラギが立膝の体勢で、椅子に腰かけながら話しかけてくる。
話を聞きながら、つぐみは無意識に彼の足へと視線が吸い寄せられてしまう。
行儀が悪いよ、ヒイラギ君。
そう思いながらも、すっと下ろしている足の長さに見とれてしまう。
いいなぁ。足、細くて長いなぁ。
……羨ましい。
そう思うつぐみのやましい視線に気づいたのだろう。
ヒイラギは目を逸らすと、台所へと行ってしまった。
「シヤの知らない人が対象になると、その相手は痛みを感じるみたいだね。さらに言えば君の姿が見えるとかではなくて、純粋に声だけしか聴こえないんだよね。その人が考えていることがわかるわけでもないし」
「わ、分かられても困ります。知られたら私、恥ずかしくて死んでしまいます」
昨日の自分の行動を思い出しかけて、つぐみの顔が赤くなる。
ごまかすように、つい自分の頬をごしごしと擦ってしまう。
照れながら品子を見ると、心なしか彼女の顔色が悪い。
「先生、お疲れではないですか? 何だか元気が無いように感じます」
つぐみの言葉に品子は、少し驚いた様子をみせる。
「心配してくれてありがとう。疲れているように見えてしまっているかい? 大丈夫だよ」
たよりなげな表情で笑うと、言葉を続ける。
「疲れているわけではなんだ。ただ私は……。私は君に後ろめたさを感じている」
品子はそう呟くと、つぐみから目を逸らす。
「後ろめたさですか? 先生、それって一体?」
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